何十年ぶりかの大雪に襲われ、雪に弱い東京都民としてはややたじろいでいたが、予てから計画していた須藤本家(茨城県笠間市)の酒蔵見学を実行した。大雪の翌々日、24日は雲一つない快晴であったが、路面凍結のため高速道路の乗り入れが禁じられ、ようやく乗れた美郷インターまで一般道を走るトラブルはあったが、約1時間遅れの行程で、無事に蔵見学を行うことができた。
須藤本家は、開業が永治年間、1140年年代というので平安末期、900年近い歴史を誇る日本最古の酒蔵である。残念ながら、その蔵と歴史を共にする樹齢9百年の欅は、先の北日本大震災で倒壊したというが、樹齢を誇る樹木で覆われた屋敷は何とも歴史を感じさせる。
予てからお願いをしておいたが、55代蔵元須藤源右衛門氏のお出迎えを受け、我々5人のために蔵元直々のご案内を頂いた。この蔵は生酒主体の製造のため、雑菌を恐れ蔵の内部の見学はできないが、ガラス越しに「米の蒸し器」の作業が見える部屋で、スライドなども使用しながら、蔵の歴史、酒造りの工程、酒米や酒の種類など、蔵元の直々の説明を受けた。
歴史や酒造りの一般論はさておき、その中で語られた蔵元の「酒哲学」が心に残った。その主要点だけを記しておく。
・酒は米、米は土、土は水が育てる。つまりその地そのものが、その地の酒を育てる
・酒は、その地に特有のものであって、その地の米がその地の酒を育む
・当社は、蔵の半径5キロ以内で作られる米で生産する。主な種類は亀の翁系のコシヒカリ
・酒というと山田錦となるが、これは兵庫の米、この地に持ってきてもうまくは育たない。この地の水に合うはずがない。雄町は岡山県、五百万石は富山の米だ。酒造好適米など、近時に作った言葉で、そのような言葉は信じない。飯米であろうが何であろうが、その地の米で造るのが一番いいのだ。マンゴーがおいしいからと言って日本で作っても育たない。
・酒は、その地の神にささげるために造る。だから神酒(みき)という。「みき」の「き」は「気」に通じる。その地の気候、気風、空気……、つまり、酒はその地の「気を醸す」のだ。もっと言えば、「その地の風を醸す」のだ
これらの話を、スパークリングに始まり、純米大吟醸の生酒と火入れ酒の3種類の利き酒をさせてもらいながら語ってくれtた。その後、樹齢何百年という樹々が囲むお庭を案内してくたが、実に夢のような2時間であった。
酒の美味しさは、これまで味わったものと種を異にし、まさに筆舌に尽くしがたく、それこそ、この地を生かした酒造りという源右衛門氏の酒哲学が生み出したものだと思い知った。
「酒は、その地の風を醸すのだ」と語る須藤蔵元
酒の命は水…、900年続く三つの井戸の一つ。あと二つは内井戸
屋敷内にある松尾神社(酒の神様)
ポールの向こうの落葉した木は、ハナミズキの巨木
55代須藤源右衛門蔵元を中心に記念撮影