この20日近く、わが家は悲しみに暮れていた。10年近く飼ってきたパンダ丸という猫(通称パンダ)が、姿を消したのだ。娘がアルバイトをしていた動物病院から、処分の運命にあったところを引き取り、わが子のように可愛がり育ててきた猫だ。故あって全て室内で育ててきたのであるが、この度、わずかな網戸の隙間から逃げ出し姿を消した。9月13日の朝のことで今日で19日目になる。
この間、娘は探し続けた。自分だけではなく、オペラ仲間のおじさんたちまで動員して、家の周囲を相当広範囲にわたって探し続けた。夜には帰ってくるはずだと、真っ暗になった庭先に、「パンダ、パンダ…」と呼ぶ娘の声が、夜ごと、悲しく、むなしく響いた。しかし、パンダは帰ってこなかった。
「猫を探しています」という写真入りのチラシを何枚も作り、周囲の家々や飲食店などに張ってもらった。みんな協力してくれて、いろいろな情報をたくさんくれたが、いずれも似ているほかの猫であった。
パンダはどこに行ったか? 以前いた猫が一週間後に帰ってきたこともあったので、最初の10日や二週間ぐらいは私も希望をつないでいたが,20日近くなって私もあきらめかけていた。年齢17歳(人間なら84歳)と推定され、最近はよぼよぼと歩いていた。猫は死に様を見せないとも言われる。私は、「パンダは死に場所を求めて出ていったのだ。最後は自分の居場所を自ら探し、自らも光を放つ星になったのだ」と思っていた。…しかしそれを娘に言う勇気もなかった。悲しみに暮れて待ち続ける娘が不憫でならなかった。
ところが! 今朝、帰ってきたのだ。隣りに住む甥が「パンダらしい姿を見た」と知らせてきたので、娘は早朝から探した。そして隣の家の庭に備えたエサにを食べに現れたのだ!
実に19日目である。ガリガリに痩せている。「ほとんど食べていないのではないか?」と言うのが娘の見立てだ。
奇跡が起こった、としか言いようがないと思っている。
逃亡前のパンダ(わが書斎にて)