「コーラは25セントだね」
「ネコは5セント?」」
「ライムは10セントだよね」
沖縄が米軍占領下だった頃のオジー、オバーの会話である。
当時はアメリカドルが通貨だったので単位がセントなのは理解できる。
だが当時にしてもコーラが25セントと言うのは高すぎるし、ネコの五倍もするのもおかしい。
「ライムが10セント」にいたっては意味不明だろう。
初めて英語に接する時、平均的日本人は学校の教科書で目を通して学ぶ。
だが米軍占領下の沖縄のオジー、オバーは初めての英語を目でなく、耳を通して学んだ。
そして米人達は25セントのことを「コーラ」と呼ぶことも耳で学んだ。
目で英語に接した人は【quarter 】のことを「クウォーター」と発音するだろうがこれでは米人達には通じない。
目で覚えた悲しさだ。 やはり耳で覚えた「コーラ」が正しい。
それで「ネコ」は?
そう、これも目で覚えた人には理解不能だろう。
オジー、オバーは米人達が5セントのことを「ネコ」と呼ぶことも耳学問で知った。
【nickel】はどうしても「ニッケル」になってしまうが、やはり「ネコ」と発音しなけりゃ通用しない。
「ニコ」と言わずに「ネコ」と言うところがいかにもそれらしい。
「ライム」は? 沖縄の年よりはダ行とラ行の発音をよく取り違える。
少なくとも「テン・セント」よりこの方がカッコいい。
沖縄語の構造・文法は日本語で古語が残っていると前にも書いたが、その言葉の幹に
中国風の単語が加わり更に米語の発音が加わる。
「コーラ」や「ネコ」とは、チャンプルー文化の面目躍如と言ったとこ。
突然話題が変わるが、イカの胴に炊き込みご飯を詰めた「イカ飯」がデパートの物産展等によく出る。 函館の名物だと言う。
ところで「蛸飯」が沖縄の名物と言ったら首を傾げる人がいるだろう。
「イカ飯」は食べたことがあっても沖縄で「蛸飯」なんて食べたことない。
その秘密はアメリカ、メキシコを結ぶ沖縄のチャンプルー文化にある。
自国の料理に自信のないアメリカ人はメキシコ料理を好んで食べる。
その影響で沖縄でもメキシコ料理が普及した。
中でもタコスが好まれた。 そのタコスの皮の代わりにご飯にしたのが、沖縄名物の蛸飯、・・・じゃなく、タコライス。 沖縄のレストランはもちろんレトルトパック入りの沖縄土産にもなっている。
他にも奇妙な名前の異文化の食べ物がある。
今ではあまり見られなくなったが、米人の出入りするレストランで「チリコンカン」とカタカナで書かれたメニューをよく見た。
アメリカ人も、沖縄人もそのままの発音で通じていた。
アメリカ人が好むメキシコ風の料理で、豆と牛肉を独特の風味で煮込んだものをチリコンカンと言うらしかった。
この奇妙にして発音しやすい言葉は何語かと調べて見たがよく分からない。
当時琉球大学でスペイン語の教授をしていた知人に聞いてもそんなスペイン語は聞いたことがないと言う。
ある店で見たメニューですべての謎が一瞬にして氷解した。
メニューにはカタカナのチリコンカンの他に【chile con carne】と併記されていた。
チリはchile sauceのチリで、コンは英語のwithをスペイン語でconと言うからチリコンまではわかる。
だが、カンは? そう、carne(牛肉)はスペイン語でカルネと発音するが、英語式ではカーンと発音する。
これを、聞いた沖縄のオジー、オバーは 「チリコンカン」と理解した。
珍にして妙なるネーミングだ。
タコライスもチリコンカンもチャンプルー文化の産物である。
【蛇足】
chili
【植】チリトウガラシの一種; チリのさや(の粉末)香辛料
chili sauce
チリソースチリ, 酢, 砂糖, タマネギをトマトソースで煮つめたもの.
chili con carne
《メキシコ料理》チリコンカルネ
牛ひき肉, 豆をチリで味つけしたメキシコ風シチューの一種.
スペイン語でチリコンカルネと発音する。
taco
タコス:メキシコ料理でトウモロコシ粉のパンケーキに肉・野菜をはさんだもの.
複数形でタコス
Taco-Rice→タコライス
タコスの具である挽肉・チーズ・レタス・トマトを米飯の上に載せた料理。
辛みをつけたタコスソースを乗せて食べる。
米軍占領下の沖縄チャンプルー文化の産物。沖縄では学校給食に採用され、今では沖縄名物料理とさえ言われている。
quarter
25セント硬貨。
dime
10セント硬貨。
nickel
5セント硬貨。