安倍内閣の支持率が急落している。「未処理5000万件の年金問題」「政治とカネの問題」がその主要な理由だという。とすれば、国民の間に巨大な錯覚、錯誤が独り歩きしているとしかいいようがない。
これはメディアの責任だろうか。政治が説明責任を果たしていないためだろうか。それとも、ことがあると一斉に同じ方向を向く国民性か。
そうした問題がすべて安倍政権の「失政」によるというのであれば、支持率激減もやむを得まい。松岡利勝農水相の自殺というショッキングな事件が起きたが、黒いウワサを承知していながら起用した安倍首相の「任命責任」は確かにあるのだろう。それにしても、この付和雷同型・情緒的反応は異常だ。
年金の未処理問題は社会保険庁という、なんともいかがわしい役所の親方日の丸体質が生んだものだ。45分間モニターに向かったら15分間休む、といった労使間の確認書の存在も明らかにされた。社会保険庁改革の進行の中で、そうした確認条項はすべて破棄されている。まじめに働かず、ずさんな仕事を続けてきた体質の根源は職員組合にあった。日教組と並んで批判の的となってきた自治労である。民主党の有力な支援母体だ。だから、民主党は安倍内閣が進める教育再生にも社会保険庁改革にも反対してきた。
社会保険庁問題の抜本的解決は民営化以外にない。われわれはそのことを国鉄や電電公社の民営化によって体験してきた。安倍内閣の社会保険庁廃止・再生案では非公務員型の日本年金機構に衣替えし、民間委託を可能にしている。民営化への一歩を踏み出したわけだ。今の職員はいったん辞めさせられるから、国鉄のときと同様にだめな職員は再雇用しなければいい。
「政治とカネ」については、松岡氏の「なんとか還元水」問題もさることながら、民主党側にも小沢一郎代表の巨額土地保有問題、角田義一氏の朝鮮総連関係団体からの献金問題などがある。見方によっては、こちらの方がより深刻だ。
年金問題で安倍首相は歴代の社会保険庁長官の退職金返納、天下り禁止などを指示、5000万件を1年間で処理するとしている。責任の所在をよりはっきりさせるのなら、社会保険庁は厚生労働省の外局であるのだから、基礎年金番号を導入した10年前からの歴代厚相に対し大臣在任中の歳費返納ぐらいのことをやってもいい。菅直人氏以後の大臣が該当する。
いまは「敵失」で意気あがる民主党だが、ブーメランさながら自分のところに降ってくる可能性なしとしない。参院選公示まで1カ月。異様な喧噪(けんそう)と興奮が冷めるのかどうか、そこを見極めたい。(産経新聞 客員編集委員 花岡信昭)
(2007/06/06 09:40)
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≪社保庁の無責任体質 失敗だった地方事務官廃止
社会保険庁の年金記録不備問題で、該当者不明の5000万件とは別に、最大1400万件の未統合の記録があることが判明した。
この役所の底なしの無責任体質、規範の緩みには、形容すべき言葉も見つからない。
組織のタガが外れ、深刻なモラルハザードを招いた要因は、2000年4月の「地方事務官制度」の廃止にさかのぼる。
それまで、身分は国家公務員で、形のうえだけ知事の監督指揮を受けていた地方事務官が「厚生事務官」となって社保庁に組み込まれた。
これにより社保庁は厚生省出向のキャリア組、社保庁採用職員、地方採用の元地方事務官の3階層に分かれてしまったのである。
それぞれの階層にミゾがあり、厚生省キャリア組は業務の詳細を知らない。
社保庁採用職員は中2階にあって現場を知らず、全体の94%を占める地方採用職員は、きちんとした監督指揮の下で仕事をした経験がほとんどなく、上の指示を受け流す流儀が染みついていた。
図体は大きくとも統制が効かぬ組織ゆえに、社保庁は「頭のない竜」と呼ばれる。
地方事務官制度が廃止された当時、所属を「地方に移すべき」という自治省と、「国の仕事」という厚生省の間で綱引きがあった。
厚生省の主張が通ったのは、政府の地方分権推進委員会が、地方事務官の廃止と、年金業務は国がすべき仕事との提言をまとめたからである。
この結果、都道府県の知事部局に所属していた国民年金課などが地方社会保険事務局に切り替わり、地方事務官も厚生事務官に変わった。
このとき、地方事務官が県職員になっていたら、年金保険がこれほどひどい状況に置かれていただろうか。
地域とのきずなを断ち切られ、「浮き草」のようになったツケが今回の不祥事の遠因になっていると思わざるを得ない。
社保庁は、年金記録不備のほかにも、年金保険の流用や保険料納付の不正免除などの不祥事が続いている。
だれの目から見ても社保庁の組織が機能不全に陥っているのは明らかだ。
野党の一部などから、年金記録不備の問題解決を理由に、社保庁の「延命」を図るかのような主張が出ているが、社保庁組織を確実に解体しなければ、禍根を残すことになるだろう。≫
お見事!、『北國新聞』さん