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一昨日のエントリー「大相撲八百長訴訟」でこう書いた。
≪(八百長)裁判は原告側が「ウソの八百長の記事で名誉を傷つけられた」という名誉毀損の訴訟であり、八百長の有無を判定する裁判ではない。
従って、「八百長はなかったが、名誉毀損には当たらない」というねじれた原告敗訴だってあり得るはずだ。
同じことが「集団自決訴訟」の判決でもいえて、
「集団自決で軍命令はなかったが、名誉毀損には当たらない」という判決もあり得る。
二つの裁判に共通することは物的証拠がなく、いずれも証言に頼っているということ。≫
これでは説明不足だが、係争中の「八百長裁判」の原告側は「同協会と、横綱朝青龍や5大関ら名前の挙がった17力士」、つまり相撲協会という組織と力士という個人である。
つまり力士個人の名誉の問題と、相撲協会という相撲界全体の名誉の問題に関わる訴訟が複数件係争中なのである。
前者の個人訴訟の場合、ガチンコ相撲と名指しされてた稀勢の里らを除く17名の幕内力士が原告であり、その中にはあの露鵬、白露山も名を連ねているという。
その後露鵬兄弟は大麻事件で相撲協会を解雇されており、原告側から降りるという話もある。
突然の解雇で協会に恨みをもっていると思われる露鵬兄弟が、原告を降りて、被告側(講談社側)に有利な証言をしないという保証は無い。
それに同じく解雇され協会に恨みを持つ若の鵬がつるんだらこのような証言だって成り立つ。
≪露鵬:「原告側に名を連ねたのは、幕内力士のほとんどが連名なのでやむを得なかったが、実際は八百長をしていた。
被告代理人:「具体的に誰と八百長し、金銭はいくら渡したのか」
露鵬:「相手は若の鵬で、同じロシアの後輩なので話がつけやすかった。 金額は一回に付き50万円」≫(仮定の話です)
そして八百長の相手とされる若の鵬がこれを認めれば、両者の証言は一致する。
だが、両者の相撲協会に対する「心の闇」を考えれば、二人の証言の一致だけでは信憑性に欠け、これを補強する金銭授受等の証拠が必要になってくる。
金銭授受の証明には通常は領収証だが、この場合は日付けの誤魔化せない預金通帳に同じ金額の出入金があれば済む。だが、これは期待できない。
結局、裁判官は証人の証言だけでは「心の闇」まで読み取れず、真実は「藪の中」ということになる。
一歩譲って証拠の残った通帳があり、、更に二人が八百長の相談をしている場面を目撃した第三者の証人がいて二人の八百長相撲が立証されたとしよう。
だが、二人の八百長相撲は二人だけの都合で行われており、相撲協会が八百長に関与していたかどうかは別の問題である。
力士にもいろんな人物がいるもので力士全員が全て人格者とは限らないわけで、数ある力士の中で露鵬と若の鵬がたまたま八百長をしたからといって相撲協会が組織的に八百長相撲を行っていたとはいえない。
従って相撲協会は監督責任を問われることはあっても、相撲協会が八百長を指示したという証拠が出ない限り、相撲協会が八百長の法的責任はない。
ここまで書くと当日記を続けて読んでいる読者は先刻ご承知だろうが、この「八百長裁判」は「集団自決裁判」に酷似していることがわかる。
先ほど「相撲協会は八百長に関与しているかどうかは別の問題である」と書いたが、この場合の「関与」は八百長を指示したという意味である。
ところが「集団自決訴訟」で原告側は、自決に手榴弾等が使用されている以上軍の関与は否定できないとする。 だが、関与にも「善意の関与」と「悪意の関与」があり、「自決命令や強制」を意味する悪意の関与はなかったと主張する。
一方、被告側は手榴弾の配布は悪意の関与であり、当然これが「軍の命令、強制」であると主張する。
このように「関与」という言葉は原告側と被告側では解釈が違うあいまいな言葉である。
さて、古い記事だが「週刊現代」出版元の講談社と記事執筆者の武田頼政氏を訴えた相撲協会と力士の記事を引用する。
名誉棄損と講談社など提訴へ 「八百長」報道で相撲協会
日本相撲協会は8日、東京・両国国技館で緊急の理事会を開き、週刊現代の「八百長疑惑」記事で名誉を傷つけられたとして、同誌の編集長や発行元の講談社などに損害賠償と謝罪広告の掲載を求める訴訟を東京地裁に起こすことを決めた。 原告は同協会と、横綱朝青龍や5大関ら名前の挙がった17力士。今後は賠償請求額を決定し、3月には提訴の見通しという。被告はほかに週刊現代の発行人と、記事を執筆した武田頼政氏。 日本相撲協会が同誌の発売後、個別に力士らを事情聴取し、全員が疑惑を否定。このほど、該当力士へ配布した委任状を回収し、訴訟を起こす意思を確認していた。 同協会の伊佐次啓二弁護士は「放っておいたら(報道が)エスカレートする可能性もあるので、毅然とした対応が必要との声が強かった。力士の何人かは出廷していただくことになると思う」と徹底的に争う姿勢を示した。今後は刑事告訴する可能性もあるという。 週刊現代編集部は「内容には自信を持っており、事実が明らかとなって窮地に追い込まれるのは日本相撲協会の方ではないかと考えている」とのコメントを発表した。
2007/02/08 09:48 【共同通信】
◇
「週刊現代」⇒「沖縄ノート」
講談社⇒岩波書店
と置き換えて、
日本軍⇒相撲協会
と置き換えて見ると、
両裁判とも「名誉毀損」という形を取ってはいるが、
最大の争点であり最大の関心事は、
「協会の八百長への指示、強制」の有無であり、
「軍の自決命令、強制の有無」である。
両裁判で共通点は外にも多々あるが、敢えて一つ挙げると、「真実の相当性」が争点になっていることである。
出版物で名誉を毀損されたと訴えた場合、執筆者として要求されるのは調査義務をどれだけ尽くしているか、真実と信じる相当な理由があったかどうかが争点になる。
二つの裁判の「真実相当性」とは、
「八百長裁判」では、八百長があったかどうかわからないけど、それを信じるに足りる調査をして書いたかどうか。
「集団自決裁判」では、軍の命令があったかどうかは分からないけどやるべきことはやって書いたかどうか。
両裁判とも、この二つがそれぞれ認められれば、「争点」が真実かどうかはさておいて、名誉毀損は免責される。
これが「真実相当性」という分かりにくい概念である。
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