新型コロナウイルスの真実 (ベスト新書)
いろいろ話題になった岩田健太郎氏の新著。主な内容は新型コロナウイルスについての解説で、やさしく書いてあって役に立つ。問題は彼が起こした「ダイヤモンドプリンセス」の騒動についての記述(第3章)である。

彼の指摘は単純で、要するに船内で危険な所(レッドゾーン)と安全な所(グリーンゾーン)の区分ができていなかったという話だ。それが事実なら、感染症の専門家としてまずやるべきことは、厚労省に「船内のゾーニングができていないから危険だ」と指摘し、すみやかに区分するように助言することだろう。
 


ところが岩田氏は、いきなりYouTubeで厚労省を批判し、ご丁寧に英語版までつくって世界に発信した。 これが単なるYouTuberの発言ならどうということはなかったが、彼が感染症の学界では有名な専門家だったため、厚労省の副大臣がこれに反論し、大騒ぎになった。

これを読んで感じたのは、最近の西浦博氏の暴走との類似性である。二人とも専門分野の研究は立派なものだが、それは彼らの感染症対策の実務家としての評価ではない。政策を立案・実行するのは官僚であり、それを指揮するのは政府である。

それは研究者にはまどろっこしく、不透明にみえるだろう。感染症の専門家たる自分が直接世論を動かしてやろうと思うのは自然で、動機は純粋だろう。しかし彼らが官僚の頭越しにマスコミに訴えた結果、意思決定は混乱し、政府は信頼を失った。岩田氏はこれを誇らしげに語っているが、危機管理で指揮系統が混乱することは致命的なのだ。
 
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