随分前になるけど自転車ロードレースの最高峰ツール・ド・フランスに夢中になったことがある。
フランスを一周ほぼ一月にも及ぶ過酷な自転車レースだ。タイムトライアルや山岳を登りきるステージがあり、その駆け引きも含めスリリングなレースが多い。不慮の事故でリタイアする選手も結構いるから完走することこそ名誉なことなんだそう。最終ステージは順位争いはせず、完走した全員が集団になってパリのシャンゼリゼをゴールの凱旋門に向かって走る、それこそ凱旋パレードで締めくくられる。最後までマイヨ・ジョーヌを身に着けていられた選手が勝者となる。
自転車ロードレースの美学が詰まったようなツールだけど、一番感動的なのは、マイヨ・ジョーヌを身に着けたたった一人のために、一緒に走るチーム全員の献身的なサポートだ。やったことは無いから実感はないけど、先頭を走るレーサーにはすさまじい風圧があるらしい。エースの体力を温存するために、身を擦り減らし交代で先頭を突き進むチームメイトがいるからこそ勝利がある。自らの体力を捧げながら仲間のために貢献する姿は日本人のメンタルに即していて、より一層感動的だ。
随分前置きが長くなってしまった。
スポーツ漫画として沢山のファンがいることは知っていた。ただ、いつものように映画として楽しむには事前の仕込みは邪魔になるので、一切予備知識無しで鑑賞。
毎週千葉から秋葉原までの往復90kmをママチャリで駆けていたヲタク少年が、誰かと一緒に何かをすることに飢えており、それが坂道を一緒に駆け上がる自転車競技だった。その喜びは仲間を信じ、信用され期待されることで掛け替えのないものへとなってゆく。
先に書いた自転車ロードレースの美学もしっかり描きこまれており、仲間(同輩、先輩、応援者)との不器用ながらも暖かな交流が気持ちいい。原作至上主義の方には物足りないだろうと思うけど、爽やかな青春映画としては十分及第点だと思う。
監督の三木康一郎のことは青春ラブコメの名手三木孝浩監督と混同していた。
調べてみたら、「植物図鑑」「旅猫リポート」(どちらも有川浩原作なので観ました)は観ている。前者は良く出来たラブコメだったので、標準以上の作品に仕上げる技量は持っていると思う。
自転車競技をしている人から見たら演者たちの走りや体躯に納得はいかないだろうけど、伊藤健太郎の流れる汗に免じて許してやって欲しい。「今日から俺は」の不良高校生カップルが部活で自転車やってると思うと、微笑ましいけど日本若手役者層の薄さを実感してしまう。
環奈ちゃんは鉄板の女子マネ。一点の曇りなし。