映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

ひとりぽっちのステップ

2020-08-04 18:25:00 | 新作映画
ファーストデイだからって、イオンシネマで観ればいつでも1,100円。丁度時間の按配が良かったので引き続き映画館にこもる。いつものように宣伝が始まって5分ほど経ってから前列2列目の椅子に座ると、150座席位ある小屋なのにオジサンひとりぽっち。遅れてくる奴もいるからなと、中田秀夫の新作ホラーの予告編観ていたらチョッピリ怖くなったぞ。

原作者の重松清はじんわり泣かせる小説を沢山書いている。一時期ずっと追いかけていたから半分とまではいかないけど結構読んでいる。映像化されることもしばしばで、ストーリーテラーとしての才に富んだ小説家だ。
早くに母親を亡くし父親が幼子を抱えて奮闘するお話は、NHKとTBSでドラマ化された「とんび」の方が有名かもしれない。「とんび」は子供が男の子だったと思うので、男同士の葛藤みたなのも描かれていたように記憶している。

わたくしも女の子の父親だ。(と言っても、一昨年嫁に行ってしまったけど)
もし、物心つく前に母親を亡くした子を一人で育てるならどうしただろう。今ほど世の中が寛大ではなかったから色々な人に手伝ってもらうしかなかっただろうな。肉親はもとより、この映画に描かれたような保育園の保母さんや勤め先の上司・同僚なんかにも世話になりながら子育てしただろう。
子育ては一人じゃ出来ないんだと、つくづく思い感じる。人をそれこそ一人前にするには単なる時間の経過ではないことを再認識させられた。先日観た「マザー」の対極にあるようなお話に心和む。
小学校の卒業の日、親子二人で鉄橋を渡り登校する姿に胸が熱くなる。

子役とかで括れないほど最近の子は演技者だ。低学年を演じた白鳥玉季ちゃんは昨年ドラマ「凪のお暇」で注目された美少女だからその実力も知っていた。高学年を演じた田中里念ちゃんのことは初めて観たが、どことなく藤田ニコル似で将来が見通せない不可思議さがある。二人ともすくすく良い女優さんになって欲しいな。
この作品で一番泣かせてくれたのは國村隼。美味しいところもってった。

終わった後に振り返ったけど、やっぱりひとりぽっち。


アルプススタンドで前のめりに応援する

2020-08-03 18:00:00 | 新作映画

お恥ずかしい話だが、始まってからずっと「いつになったらアルプススタンドを走るんだろう?」と思って観ていた。アルプススタンドのはしり方だとばかり思っていた題名が、端の方だと気づいたのは声をつぶした熱血教師がもっと前に来て応援しろとしつこく説教したからだ。

原作は兵庫県の高校演劇の台本だと知って驚いた。
そう言われてみれば高校演劇らしい題材だと納得。それにしても高校野球あるある的な裏話を良くぞ物語にまとめ上げたと思う。演劇部の顧問先生が台本を書いたのかもしれないが、称賛されるべき作劇だ。

映画も舞台的な設定を意識して、アルプススタンド以外に映るのはトイレ前の通路とベンチだけ。映画としての広がりは吹奏楽部が奏でる応援団の音くらいか。
端の方に座る4人以外には前述した熱血教師と吹部部長と部員2名の8人しか台詞は無い。その辺も演劇っぽい演出を崩すことは無い。

自分の生き方を「しょうがない」とあきらめていた彼らが、いつしか前のめりになって声を張り上げ応援する姿がとっても良い。一度も映ることない野球グランドで汗にまみれて白球を追う姿が見えてくるような演出は、映画だからこそなかなかその勇気を持つのは難しい。個人的には地方予選の一回戦敗退のお話でいいと思う。その方が、一層現実的で親近感いっぱいだ。

映画に限らず見世物の作り方に一石投じるような快作だ。


青春映画をバカにしてはいけません

2020-08-01 10:15:00 | 旧作映画、TVドラマ


三木孝浩監督作品について考えてみた。
以前より漫画やラノベ原作の青春物を得意にしている職人監督と認識していたが、テレビ会社と東宝が組んで安価に量産する、低リスクそこそこリターン物件の請負人程度にしか評価していなかった。
若手の俳優女優を使えばコストが抑えられるし、原作ものであれば品質も潜在的消費者もそれなりに担保できる。舞台が宇宙や外国なんてことも少ないから制作コストもかからない。送り出す芸能プロダクションとしても、核になる主役の子を中心にこれから売り出そうと企んでいるその他大勢をお披露目するにはいい機会だ。
ここ十年ばかりこの手の作品が飽和状態なので、全部映画館で観るまでの食指は動かないのが現実。
そこで、本来ならオリンピックに湧きたっていただろう四連休の後半、梅雨空で散歩する気も起きず配信サービスで三木監督作品を観続けた。

「陽だまりの彼女」原作が面白かったのでお話は知っていた。向井康介・菅野友恵脚本、上野樹里・松本潤主演。前に断片的にCS放映を観たような気もする。
「アオハライド」青春をアオハルと読んでみれば、題名に納得。吉田智子脚本、本田翼・東出昌大主演。幼馴染、ツンデレと少女漫画の王道だな。
「青空エール」原作は河原和音。だから舞台は北海道。持地佑季子脚本、土屋太鳳・竹内涼真主演。これまた、野球と青空と応援する女子、王道だ。
「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」題名が複雑で理解しにくい。吉田智子脚本、小松菜奈・福士蒼汰主演。ラブコメというよりファンタジー系のラブロマンスだ。

以前も、吉田智子脚本、能年玲奈・登坂広臣主演「ホットロード」と登米裕一・持地佑季子脚本、新垣結衣主演「くちびるに歌を」を観ているから6作を観たことになる。
凄いなと思ったのはどの作品も眠くならなかったことだ。同じようなスタイルなのにそれぞれみんな面白かった。「くちびるに歌を」は以前にも書いたけど好きな作品。そして今回「ぼくは明日、昨日のきみとデートする」に痛く感動してしまった。時空を超えたロマンスを描いた傑作は結構多いが、これはまた新手のお話だった。分かりづらい題名がすっきりと馴染んで女の子の哀しみに涙は止まらない。最近お気に入りの小松菜奈を愛でるにも最良のコンテンツだと思う。

面白いなと感じたのは脚本家の選び方。全14作品の内、吉田智子と4本、持地佑季子と3本、登米裕一高橋泉とは各2本タッグを組んでいる。職人監督には珍しくこだわりがあるのかもしれない。

初期の3作、最近の5作も機会があれば観てみよう。

追記
プライムビデオですずちゃんの「先生!」を観た
やっぱり上手い。原作も河原和音ということもあろうが、高校生の未熟な恋心にオジサンまた感動してしまった
そんな2022年の秋