水俣関係の映像を社会学の先生にお借りして、デジタル化している関係で、是枝裕和『雲は答えなかった 高級官僚その生と死』を読んだ。この本は、『しかし・・・福祉切り捨ての時代に』というタイトルで、ドキュメンタリーで放映され(是枝のはじめてのディレクターの作品、1991年3月12日放映)、その後、1992年に単行本『しかし・・・ある福祉高級官僚 死への軌跡』として出版された。この本は、オーストラリアから帰って、買って読み、研究室に存在してきた。その後、2001年に『官僚はなぜ死を選んだのか 現実と理想の間で』と改題され、文庫版として出された。2014年、それを改めて『雲は答えなかった 高級官僚その生と死』として再度出版されることとなったものである。
理念や理想と現実:政治と行政とそして個人の思い・良心の間の齟齬や軋轢。「車輪の下」にあるものの苦しみと同時に、その下には民衆の苦しみがあり、それをどう車輪に伝えていくのかという個人と歴史があるということだろう。割り切れない・割り切らないということが、評価されない社会。あれかこれかを上からも、下からも突きつけられる。
水俣病という公害、病気や障害をおうた人間の苦しみを思いつつ、国家と独占資本が障害を発生・拡大させるメカニズムが動く社会をどう変えていくか、それは一筋縄ではいかない。批判したり、合理化したりというスタンスで自己を安全地帯においていくのが、自分も含めて大多数ではないかとおもう。
この主人公、山内豊徳の生と死はなにをものがたっているのか。是枝のその後の映画作品の出発点ともなっているのではないかとおもう。