4月24日、面白い判決が最高裁で出された。
結果は、住民の敗訴確定だけれども、私はひとつ明確になったと思う。
「損害賠償請求を怠り請求権が消滅してしまった場合、住民が監査請求できるのはいつまでかが争われた住民訴訟の上告審判決で、最高裁第三小法廷(堀籠幸男裁判長)は、「時効などで賠償請求権が消滅してから1年以内」との初判断を示した。」
つまり、こういうこと。
住民監査請求は、支出から1年間を経過したら不適法になり、怠る事実に関しては怠る事実が継続しているうちはいつでもできる、とされていた。怠る事実が時効になった場合は、その時点で直ちに住民監査請求ができなくなるという考えもあった。しかし、この時効の時点から通常の1年ルールが適用される、というわけだ。
岐阜県庁裏金事件の時効になっていない20年分を返せ、の住民訴訟。2006年夏、事実が明らかになって速やかに住民監査請求した。
裏金事件の住民訴訟の訴状などへ
この判決は、「怠る事実についの時効」と住民監査請求の関係を明確にしたといえる。岐阜裁判の争点は、何を「怠る事実」ととらえるか。
人気ブログランキング→→←←ワン・クリック10点
● 住民監査請求「消滅」でも1年内-最高裁 2007.4.25 四国新聞
欠陥が見つかった公共工事について、自治体が業者への損害賠償請求を怠り請求権が消滅してしまった場合、住民が監査請求できるのはいつまでかが争われた住民訴訟の上告審判決で、最高裁第三小法廷(堀籠幸男裁判長)は24日、「時効などで賠償請求権が消滅してから1年以内」との初判断を示した。
工事は香川町(現高松市)発注の道路工事。1996年に完成後、欠陥が見つかり町は設計業者を提訴したが、2003年11月に敗訴が確定。施工業者との約款では賠償請求は「引き渡しから2年以内」と決まっていたのにこの間に請求をしておらず、権利が消滅した。
住民は03年12月に監査請求したが退けられ、訴訟で「期間の制限はない」と主張していた。
地方自治法は、住民監査請求ができる期間について、違法・不当な公金支出があった場合などは、その行為から1年以内と制限しているが、財産管理などを怠ったケースは規定がない。堀籠裁判長は期間の制限について「いつまでも監査請求できるような状態は法律的な安定性を欠く」とした最高裁判例を、怠ったケースにも当てはめた。
その上で監査請求が遅すぎたとして訴えを却下した1、2審判決を支持、住民側の上告を棄却した。住民側敗訴が確定した。
本件最高裁判決の概要にリンク
● 平成17(行ヒ)341
事件名 損害賠償履行請求事件 平成19年04月24日 最高裁判所第三小法廷 判決
原審裁判所名 高松高等裁判所 原審事件番号 平成17(行コ)3
原審裁判年月日 平成17年07月22日
判示事項 裁判要旨
1 怠る事実に係る実体法上の請求権が除斥期間の経過により消滅して怠る事実が終わった場合には,これを対象とする住民監査請求は上記怠る事実の終わった日を基準として1年の監査請求期間の制限に服する
2 怠る事実に係る実体法上の請求権が除斥期間の経過により消滅して怠る事実が終わった場合には,上記怠る事実が違法であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使を対象とする住民監査請求は上記怠る事実の終わった日を基準として1年の監査請求期間の制限に服する
本件最高裁の判決の本文にリンク
主文 本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由 上告代理人荻原統一,同桑城秀樹の上告受理申立て理由(ただし,排除された部分を除く。)について
1 本件は,香川県香川郡に属していた旧香川町(以下「町」という。)の住民である上告人らが,① 町長の職にあったA(以下「A」という。)は,町道の改良工事を請け負ったB(以下「B」という。)に対する瑕疵の修補に代わる損害賠償請求権の行使を怠り,同請求権を工事請負契約約款所定の除斥期間の経過により消滅させて町に損害を被らせた,② これにより町はAに対して損害賠償請求権を有しているところ,町長は,同請求権を行使せず,違法に財産の管理を怠っていると主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づいて,Aに上記損害賠償の請求をすることを町長の事務承継者である被上告人に対して求めた事案である。
2 地方自治法242条2項本文の規定(以下「本件規定」という。)は,同条1項の規定による住民監査請求のうち財務会計上の行為を対象とするものは,当該行為のあった日又は終わった日から1年を経過したときは,これをすることができない旨定めている。これは,財務会計上の行為は,たとえそれが財務会計法規に違反して違法であるか,又は財務会計法規に照らして不当なものであるとしても,いつまでも監査請求ないし住民訴訟の対象となり得るものとしておくことは,法的安定性を損ない好ましくないことから,監査請求期間を,非継続的な財務会計上の行為については当該行為のあった日から,継続的な財務会計上の行為については当該行為の終わった日から,それぞれ1年間に限ることとしたものである(最高裁平成10年(行ヒ)第51号同14年7月2日第三小法廷判決・民集56巻6号1049頁参照)。
このような本件規定の趣旨からすれば,財産の管理を怠る事実に係る実体法上の請求権が除斥期間の経過により消滅するなどして怠る事実が終わった場合には,継続的な財務会計上の行為の終わった日から1年を経過したときはこれを対象とする監査請求をすることができないのと同様に,怠る事実の終わった日から1年を経過したときはこれを対象とする監査請求をすることができないものと解するのが相当である。
また,上記の場合において,上記請求権の行使を怠り,同請求権を除斥期間の経過により消滅させるなどしたことが違法であるとし,当該怠る事実(以下「第1の怠る事実」という。)が違法であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実(以下「第2の怠る事実」という。)とした上で,第2の怠る事実を対象とする監査請求がされたときは,当該監査請求については,第1の怠る事実の終わった日を基準として1年の監査請求期間の制限に服するものと解するのが相当である。なぜなら,前記のとおり,第1の怠る事実を対象とする監査請求は,第1の怠る事実の終わった日から1年を経過したときはこれをすることができないにもかかわらず,監査請求の対象を第1の怠る事実が違法であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使という第2の怠る事実として構成することにより,監査請求期間の制限を受けずに実質的に第1の怠る事実を対象とする監査を求めることができるものとすれば,本件規定が監査請求期間を制限した前記趣旨が没却されるといわざるを得ないからである。
これを本件についてみると,原審の適法に確定した事実関係によれば,上告人らの監査請求は,Aが,町のBに対する瑕疵の修補に代わる損害賠償請求権の行使を怠り,同請求権を除斥期間の経過により消滅させたことを違法であるとし,当該怠る事実が違法であることに基づいて発生する実体法上の請求権である町のAに対する損害賠償請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものである。
そして,上告人らの監査請求は,Bに対する上記損害賠償請求権が除斥期間の経過により消滅したとされる日から1年を経過した後にされたものであるというのである。そうすると,上告人らの監査請求は,Bに対する上記損害賠償請求権の行使を怠る事実の終わった日から1年を経過した後にされた不適法なものというべきであって,本件訴えは,適法な監査請求の前置を欠く不適法な訴えとして却下を免れない。
3 以上と同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。所論引用の判例は事案を異にし,本件に適切でない。論旨は採用することができない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 堀籠幸男 裁判官 上田豊三 裁判官 藤田宙靖 裁判官 那須弘平 裁判官 田原睦夫
| Trackback ( )
|