●暮らし 就寝中の歯ぎしりですり減り・ひび・顎関節症
中日 2016年10月4日
マウスガードを紹介する宮田泰歯科医師=愛知県刈谷市で
歯が異常にすり減ってしまう就寝中の食いしばりや歯ぎしり。自覚症状がある人は少なく、歯の手入れに行った歯科医院で指摘され、初めて気付くことが多い。日中のストレスが原因という指摘もあるが、根本的な治療法は今のところない。寝る時に樹脂製マウスガードを歯に着ける対処法が一般的だ。
「歯がかなりすり減っています。寝ている間に、食いしばっている可能性がありますね」
名古屋市の女性会社員(32)は一月、虫歯の治療のため自宅近くの歯科医院に行き、歯科医師から食いしばりを指摘された。歯がすり減るだけでなく、歯の表面にひびも入りかけていた。
とがっているはずの犬歯の先も平らになっていた。「親にも夫にもこれまで、歯ぎしりをしていると言われたことがなかった」と驚く。
食いしばりによる歯へのダメージを避けるため、スプリントと呼ばれるマウスガードを歯形に合わせて作った。毎晩、寝る時に上あごの歯にはめている。
歯ぎしりや食いしばりなどは、歯科医療ではブラキシズムと呼ばれる。「ブラキシズムの患者さんは最近、増えているように感じます」。愛知県歯科医師会理事を務める宮田歯科医院(同県刈谷市)院長の宮田泰さん(53)は指摘する。
宮田さんによると、ブラキシズムは就寝中だけでなく、起きている時でもパソコン作業中など神経を集中させている時に起きる。歯ぎしりは音がするため、他人から指摘されることがあるが、食いしばりは音がせず、歯科医院に来るまで気付かない人が多いという。
ひどい場合には、歯の表面のエナメル質とその中の象牙質が削れて、本来の半分ほどの大きさになってしまったり、歯がひび割れて抜かざるを得なくなったりすることもある。歯周病の進行を早めることも分かってきた。またあごに負担がかかるため、顎(がく)関節症につながる場合もあるという。
一般的な対処法は、就寝前にマウスガードを入れて歯を保護すること。歯が削れたり、ひびが入ったりすることは防げる。製作には健康保険が適用され、自己負担は五千円程度(三割負担の場合)。宮田さんは「知らない間に症状が進行している場合がある。心配な人は歯科医院で診てもらって」と勧める。
◆ストレスとの関連指摘
ブラキシズムの原因ははっきり分かっていないが、ストレスとの関連が指摘されている。
ひろせ歯科医院(京都市下京区)院長の広瀬俊司さん(57)は「食いしばりや歯ぎしりをする人は、ストレスが高い傾向にある」と話す。広瀬さんは臨床心理学などの手法を用いて、患者のストレス解消を目指している。
同院ではまず、患者の性格や日常生活の心理状態を把握。ブラキシズムの症状があり、ストレスが高いと判断した場合は、緊張したときや忙しいときに、おなかに力を入れて息を鼻からゆっくり吸って口から吐く呼吸法を十回程度繰り返すよう指導する。
睡眠の質が低下したときにブラキシズムが現れることが多いため、良質な睡眠を取れるように生活改善を勧める。何事も後ろ向きに考えてしまう人には、前向きにとらえるようアドバイス。「全員に効果があるわけではないが、改善がみられる患者もいる」と広瀬さん。
ただ、歯ぎしりや食いしばりで心理的な不安が解消される場合もある。広瀬さんは「歯と歯茎を壊さない程度に、いかに歯ぎしりや食いしばりの強度と頻度を減らすかが大切」としている。 (寺本康弘)
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