背後の山が夕闇の空にくっきりとそびえ、遠くの海岸沿いの道路から時折通行する車の明かりがまたたいていた。
正面の空は太陽の手から放たれて、水面に絢爛と燃え立っている。
藍色と、紫と、茜と、緋の帯が、幾筋も重なりよじれあって、宵闇を招いていた。
そして、裏手の山にはすでに暗黒が訪れていた。
「すっかり暗くなりましたね」
うん、でも大丈夫。水中ライトはばっちりチェックした。
「しかし、寒いっすね。もう、5mmのワンピーじゃ凍えちまいそう」
水の中は平気だよ。暖かいぐらい。
「でも、ハロウィンが1500本目の記念ダイブだなんて、ステキですね」
うみゅ、でも台風が通過の今日は、さすがに人が少ない・・・
「まあ、いいじゃないですか。こうして仮装してナイトダイビングできるわけだし」
さて、準備をはじめようか。(ぼわっ)
「わっ、なんすかそれ?・・・フワフワ浮いてますけど」
新しいライトだ。ウィルオウィスプ(Will o' the wisp)。松明持ちのウィリアムの意味。
「それって、どこのメーカーなんです?」
これは市販されてはいないんだよ。死後の国へ向かわずに現世を彷徨い続ける、ウィリアムという名の男の魂だ。
「ハロウィン・ナイトだからって、またまた冗談を。トリック・オア・トリートなんて子供じみたことを言わないでくださいよ」
・・・冗談ではない。
「おー♪マスクはお約束のコウモリっすね。その仮装マスク、カコイイっす」
・・・そうか?
(明日に続く)
気に入った写真や記事がありましたら応援のクリックよろしくお願いします。
![にほんブログ村 写真ブログ スナップ写真へ](https://photo.blogmura.com/p_snap/img/p_snap88_31.gif)
にほんブログ村