ここ数回のフライトで、山のヘリにできる斜面上昇風を使ったリッジソワリングがプランどおりにできていたのでいい気になっていた。こんな時にえてして事故は起こるものだ。
今日は南の風、風力2m。いつものテイクオフは風がフォローとなるため使えずに、海に向かって南側の斜面になる白浜の崖上からテイクオフすることになった。もちろん、ぼくはこのランチャーは初めて。高さ100mぐらいの絶壁から海に向かって飛び降りることになる。アップした写真ではよくわからないが、海までは直線で100mぐらい。ランディングはさらに左手のずっと奥の方の砂浜だ。砂浜沿いに交通量の多い国道が走っており、国道と平行にJRの線路がある。すなわち、ランディングの砂浜にたどり着くには、海に向かって飛び出して、大きく左に進路をとり、いくつもの民家を飛び越えて、線路を渡り、道路を渡り、海風を横から受けながら、20mぐらいの幅の砂浜にランディングする必要がある。
いつか書こうと思っていまだにできないでいるが、パラグライダーをやる人たちって、結構、キャラが立っている。今日のメンバーは7人。中には国際線のパイロットもいれば、アルファロメオに乗った若旦那やら、めちゃくちゃかわいい女の子やら多種多彩。
スノーボードなども含め自然を相手にするスポーツで、上級者と言われる人たちには2種類のタイプがある。一方は、力で自然をねじ伏せていくタイプ。そして、もう一方は自然と調和して、その時その時でベストな技術を繰り出して対処するテクニシャンのタイプだ。ぼくが弟子入りしているインストラクターは後者のタイプ。かなりの強風でも一発でキャノピーを立ち上げて、あっという間に上空に昇っていく。
彼はどうも、日本のパラグライダーパイロットの草分けらしい。当初のメンバーはほとんど事故で亡くなってしまったという。インストラクターの車の運転などを見ていると非常に慎重で、だからこそ、これまでに無事でいられたのかもしれない。だが、自然に対して謙虚な、あるいは、慎重な彼は、人に対しては力でねじ伏せる対応をとるから人間って面白いって思う。いつか、このクラブに集まる雑多な人間たちをモデルに小説を書きたいと思っているが、パラグライダーのライセンスを取るまでは人間関係を壊したくないので、それまでは控えるつもりでいる。とにかく、インプレッシブな人たちである。
午前中は風が弱く、風待ちをしていたのだが、午後になって最初は2mぐらい、それから7mを越える強風となった。最初の一本目は、斜面上昇風を捉えて、民家を越えて線路も道路も越えてややフォローぎみの風での着地となったが無事に砂浜にランディングすることができた。迎えに来てくれた車で気分良くテイクオフに戻ると、教え魔の先輩からテイクオフの講義があった。
・・・・・・昨日も書いたが、ぼくはどうも色々なことを言われると、それらをすべて反復理解しようとしてその結果、頭の中がパンクしてしまうようだ。
自然を相手にするスポーツで、一つだけの正解というのはない。起こした行動が順次、違った状況を引き起こして行き、いろいろなことが重なって、最終的な結果となる。一連の行動の中で、やることは同じであっても、人によって得ることのできるコツと言うものは変わってくる。だから、ある人が会得したコツが、他の人に当てはまるとは限らない。キャノピーをどうしてもうまく立ち上げられずに、みんなからビービー言われている女の子を見るにつけ、”まわりの声は気にするな、自分で会得したものを大事にしろ”と声を掛けてあげたくなるが、これも彼女に当てはまるとは限らないから言わないつもりだ。
2回目のテイクオフ。7mを超える風。僕は最初のフライトの後で言われたキャノピーのコントロールに気をとられていた。クロスハンドでキャノピーをライズアップ。頭上に上がったキャノピーに引き上げられ、進行方向とは体が逆のまま、空中に引きずり出された。後でインストラクターが言うには、体の向きに関係なく、キャノピーをコントロール。テイクオフディレクターが言うには、心を決めてすばやく体を反転させて、そしてコントロール。教え魔の先輩が言うには・・・・・・、もうその時は脳のキャパシティオーバーで、いろいろ言われた言葉の一つも思い出せない・・・・・・。
最悪の状況は、テイクオフ直後に何もできないこと。この時のぼくは、困ったチャンになっていた。頭が真っ白のまま、何もできずに進行方向とは体が逆のまま墜落。このスタート直後の墜落を”スタチン”(スタート際の沈没?)と言う。そして僕は、グライダーごと崖下の木に引っかかり救助されることとなった。
事故の原因。今考えればいくつもある。だが、テイクオフは自分の責任。なにがあっても、たとえ考える能力が失われても、自分でこれまで培ってきた技術を反射的に出すことが肝心だ。考えずにコントロール。考えるとどうしても反応が鈍ってしまう。
今回のスタチンで、木に引っかかったグライダーを回収するのにメンバーに大分迷惑を掛けてしまった。いい風が吹いていたのに、何人もフライトを中止して回収を手伝ってくれた。”お互い様だよ”とみんな言ってくれるが、申し訳ないやら、悔しいやら。
次回は、とにかく考えずに回りの声を無視してコントロールするぞ。