「医療法人の理事の任期と平成18年改正医療法の経過措置について」について,若干補足する。
平成18年改正前医療法(平成19年3月31日まで)においては,理事の任期は,法定されていなかったことから,「理事は,任期満了の場合においても,後任者が就職するまでその職務を行わなければならない」という定款規定は,任期伸長規定であると善解されていた。
しかし,平成18年改正医療法により,理事の任期が法定されたことから,法定任期(2年)を超える任期の伸長は,認められない。したがって,定款で定めた任期が2年である場合には,「理事は,任期満了の場合においても,後任者が就職するまでその職務を行わなければならない」という定款規定を存置していたとしても,善処義務を定めたものであって,これを任期伸長規定と解することはできない。
ところで,改正附則第9条第2項の規定により,施行日前に設立された医療法人の定款又は寄附行為は,施行日から1年を経過する日(同条第1項の規定により定款又は寄附行為の変更の認可の申請をした医療法人については、当該申請に対する処分があった日)までは,新医療法第6章の規定により定められた定款又は寄附行為とみなされており,この場合において,当該定款又は寄附行為と同章の規定が抵触する場合においては,当該抵触する部分については、同章の規定は,適用しないものと定められている。
したがって,改正附則第9条第1項の規定により義務付けられた改正法に対応した定款又は寄附行為の変更の効力が生じた日まで(定款等の変更をしなかった場合は,平成20年3月31日まで)は,新医療法第6章の規定と抵触する「任期伸長規定」であると解することもできたが,同日以後は,そのように解することはできなくなっているのである。
改正附則第11条が,「この法律の施行の際現に医療法人の役員である者の任期は,新医療法第46条の2第3項の規定にかかわらず,この法律の施行の際におけるその者の役員としての残任期間と同一の期間とする」と規定している点について,施行日において「任期伸長規定」の適用を受けていた理事は,後任者が就任するまで半永久的に任期が伸長されるように誤解している向きがあるようである。
しかし,定款変更の効力が生じたことにより,「任期伸長規定」と善解することができなくなった以上,「任期伸長規定」の適用を受けていた理事は,同日の経過をもって任期満了となっているのである。
改正附則第11条は,「なお従前の例による」規定のように,「包括的に凍結した状態」を作出するものではなく,「任期は・・・残任期間と同一の期間とする」と定めているに過ぎない。したがって,改正附則第9条第2項の規定により,定款変更の効力が生じた日の経過をもって「任期伸長規定」が「善処義務規定」に変質した以上,任期伸長の恩恵を享受し続けることはできないのである。
よって,施行日において「任期伸長規定」の適用を受けていた理事が存する医療法人は,定款変更の効力が生じた日の経過によって,当該理事が任期満了となり,理事が欠けた状態となっていることから,原則として,医療法第46条の4第5項の規定に基づき仮理事の選任を申し立て,仮理事が所要の手続を行うことになる。
理事の選任は,社員総会で選任するケースが多いと思われるが,仮理事が社員総会の招集を行うわけである。
しかしながら,判例の趣旨に照らせば,退任した理事の善処義務に基づいて,社員総会を招集し,社員総会を開催することもできると考えられる。
とはいえ,家族経営の小規模医療法人が大多数であるから,通常は,招集手続がなくても,全員出席総会によって,有効に理事の選任決議をすることができると考えられる。