ⅩⅫ「何時でも身構えて」
僕は何時でも身構えているけれど
吹く風の中に
若しかしてあの人の声紋が混じっていないかと
天上を揺蕩う雲塊から
言語の雫が垂れてこないかと
僕の海馬の片隅から
思いもかけず日向の匂いが蘇らないかと
蒼穹から幻のように
言の葉の粒が降ってこないかと
若しかして半世紀も遡ったあの頃から
僕宛ての手紙が舞い込まないかと
あの人の書く柔らな丸文字が
僕の何処かで木簡のように発掘されないかと
故郷の原点に蹲る僕が
突然さっそうと動き出さないかと
penとmemoを持って
時のmanimaを渡る僕は
何時でも身構えているけれど
たった一行も印字できない巡り合わせもある
たった一個のinspirationも殻に閉じ籠った儘もある
一振れの微動も許さない虚しさもある
沈黙のままブラックホールに沈んでゆく感覚もある
明暗・生死・有無・神仏
それから
晴雨・男女・善悪・是非
総ては一体のままに移ろう
*12/01 22:55