「どん底から生まれた宅急便」
都築幹彦著
日本経済新聞出版社 1700円+税
著者の都築さんは、ヤマト運輸の元社長。
オーナー2代目の小倉昌男さんとともに「宅急便」のビジネスモデルを築き上げた中興の祖ともいえる人物。
同書は、都築さんの初の本。
経営学の名著、古典である小倉昌男著「経営学」と合わせ読むと、ヤマト運輸の表と裏両面からの探索が可能になります。
先日、都築さんとお話しする機会があったのですが、その際、「小倉さんの本は成功ストーリー、私の本は失敗を綴ったストーリー」と話されていました。
83歳を過ぎてもカクシャクとされているお姿には、まだまだオーラが漂っていました。
「ボクは、三代続く江戸っ子、青山の生まれだから、口が悪いよ」
「実は、この本はパソコンで書いたんだ。この年で、パソコンをきつかったよ」
いただいた名刺には、アマチュア・マジシャンズクラブの17代会長の肩書が・・・。
もう20年以上も手品を趣味として継続されているそうです。
そう話される笑顔には、日本の流通システムを一変させたビジネスパースンというよりは、ニッポンの良きお爺ちゃんといった感じでした。
自分もこういう爺さんになれたらなあ、と感じた次第です。
この本の中には、いくつも面白いページがあり、楽しく読むことができます。
小倉さんが営業部長で都築さんが営業課長であった時代の話、アニメ「魔女の宅急便」の秘話、汐留営業所長時代の話、ゴルフ宅急便、スキー宅急便開発秘話・・・。山あり谷ありのジェットコースターのヤマト運輸の発展・・・。
古い体質の大和運輸からの脱却、ビジネスモデル構築の苦悩、運輸省との対決、労働組合との関係性、セールスドライバーの育成・・・。
さまざまな壁や苦難を乗り越えていく著者の姿は感動を呼びます。
著者は、「利益より信頼」「密集度を高める」といったマネジメントのキーワードを挙げています。
一見、原理原則と反するように思える思想、方法論が、年間14億個の小口発送、利益700億円を産みだしたのです。
特に、小倉昌男さんの「経営学」を読まれた方は、ぜひお読みいただきたい一冊です。
◆目次
1.どん底のヤマト運輸
2.社運をかけた挑戦
3.なぜ郵政に挑戦したのか
4.運輸省の厚い壁を打ち破る
5.進化する宅急便
6.ヤマト運輸との出会い