「心を整える。勝利をたぐり寄せるための56の習慣」
長谷部誠著 幻冬社 1300円+税
スポーツ選手の書いた本は、自分の枠組みの中ではテレビタレント、歌手、バンドの書いたタレント本と同列なのですが、長谷部誠著の書いた同書を読み、少しフレームが変わったように思います。
ゴーストライターをつけて口述したものをまとめていくというプロセスがあるにせよ(推測・書名「心を整える。」の「。」は、区切り、句読点。「モーニング娘。」のそれに近い、プロの技、テイストを感じました・・・)、
同著はなかなかの名著だと思います。
著者の印税が全額ユニセフを通じて東日本大震災に寄付されるというのも素晴らしいと思います。
この本は、息子が読んで投げてあったもの(息子達は野球バカ。しかも二人ともキャッチャーという地味役です)。
また、アホなものを読んでいるのかと思い、ペラペラとめくるつもりが、いつしか引き込まれてしまいました。
これは、自己啓発本だ・・・。
長谷部選手が、ピッチで見せる動き・・・真面目、真摯、紳士、ひたすらさ・・・まさに日本人が好きな姿勢そのものなのです。
シャイで自己表現が苦手、でも仕事が好き・・・という日本のビジネスパースンとオーバーラップしてくるのです。
「日本男児」を書いた長友選手も同様です。
小柄ながらも適確な判断とスピーディな動きで南米、アジアや欧州の選手の間を駆け回ります。
まさにデキるジャパニーズビジネスマンなのです。
また、自分自身のメンタル面の維持、体調の自己管理、勝つための工夫等、いままで知らなかったプロのトップアスリートの生活、ストイックで生真面目なスタンスを知ることができました。
長谷部選手が「ニーチェの言葉」を読んでいるということ、ミスチルを聴いていること、昔茶髪でロン毛だったこと、塾をサボってゲーセンに通ったこと・・・ヤンチャで真面目な長谷部選手の一面がなまなましく記述されています。
キングカズこと三浦選手は、友人と食事をしていても野菜中心、炭水化物は試合前だけ、時間が来ると「明日練習だから」と定刻に引き上げる・・・という「まさにプロ」というシーンが登場します。
組織の穴をうめる
運は口説くもの
群れない
なかなかの名言が続きます・・・。
今まで野球の分野では、野村監督本、古田選手本、メジャー長谷川投手本などの知性派、理論派の書籍が有名でしたが、サッカーの世界では現役のオールジャパン選手の著作。
これから、欧州リーグやワールドカップ予選でピッチを駆け回るジャパニーズビジネスマン長谷部選手と長友選手に注目したいと思います。
ガンバレ!ニッポン
「破壊と創造の人事 これから10年人事戦略はこう変わる」
楠田祐(中央大大学院客員教授)・大島由紀子著 ディスカバー21刊 1890円
最近、人事本を読む機会がなかったため、久々に手に取った一冊。
ここ10年の日本型経営における人事話は成功事例が少なく、個人的にも辟易していたということがあります。
ブームとも言える成果主義人事がなかなか機能せず、
従業員の不信感や疲弊を産み出し、
さらに経営への貢献度が低かった・・・
成果主義人事制度の実験の失敗の10年・・・ということがあったからだと思います。
人事と書いて「ヒトゴト」と読む。
そういった人事部が最近目につくように思います。
現場は疲弊、若年層の早期退職、メンタルヘルス・・・。
経営は、現場主義とは言いながら、いまだ中央集権的、画一的に本社からコントロールしようとする人事部機能が限界にきているのではないかと考えています。
現場主義を標榜するのであれば、ラインに人事機能の一部を権限移譲していくことも必要かもしれません。
総論部分は、いわゆる一般論で少し退屈ですが、急成長企業についての楽天人事部長とソフトバンク人事部長の対談、サービス力強化に向けてのヤマト運輸人事総務部長とロフト人事部長の対話では、具体的な事例も出てきて大変興味深く読むことができました。
ダイバーシティ、グローバル人事、BPO、人事情報システム、グループ企業人事、採用、選抜研修などの最新事情も触れており、人事部長、人事課長、人事部員、そして人事の仕事に就きたい方に一読いただきたい一冊です。
日経MJの人気商品番付ランキングの中に「アフター4」。
今年は、20年ぶりに横綱がなかったとのこと。
3.11以降、人々の消費性向は変わりました。
この「アフター4」は、大関の「節電商品」とも通じるのですが、電力不足によりサラリーマンの帰宅時間を早め16時には帰社させるというもの・・・現代版サマータイムです。
これに目を付けた商魂たくましい企業家が新しいビジネスを始めたとのことです。
4時から飲める居酒屋、リストラの危機感を持つ勤め人が自己防衛のため通う資格取得予備校、これを機にメタボを脱出するためのトレーニングジム、避暑地としてのシティホテル・・・。
3.11以降、人々は自己防衛本能、軽薄短小の回避、スピリチュアルへの興味、家族への回帰といったベクトルへ動いている感じがします。
不要不急なものはいらない、自己への投資を重視する、絶対というものはない、安全にはコストがかかる・・・そんなニーズに対応する商品やサービスがうける時代に移行したということが言えると思います。
個人的には、すごく不遜な言い方ですが、「パンと見世物(サーカス)」にどっぷりと漬かっていたこの国に変革をもたらす事態になったのではないかと考えます。
石原都知事は、天罰発言で叩かれましたが、いたるところにある自販機、コンビニ、パチンコ店・・・。
見直すべき時期にあるのではないでしょうか?
「もしドラ」の大ヒットは、素晴らしいとは思います・・・。
売れています・・・。
が、昔から真面目にドラッカーを読んできた地道で裏街道を歩むドラッカーファンにとっては複雑な心境です。
今、ドラッカーを読んでいますと話すと、「流行に乗っていますね」という反応に出合いそうで・・・それはドラッカーフリークにとってはとっても恥ずかしいことだと思えるのです。
事実、わたくし自身もドラッガリアン=ドラッカーファンですが、「もしドラ」以降は、ドラッカーの本を手に取るのが少し恥ずかしい感じ・・・照れくさい感じとなったのです。
書店に行ってもドラッカー本というか、ドラッカーを銘打つだけで平積みになめ世界は許せないよな~と感じているところなのです。
また、ドラッカーと高校野球の女子マネジャーを組み合わせちゃイカンよな~、マネジメントをそのレベルにしちゃいかんよなあ~・・・と、マイナーながらの陰口を叩いているところなのです。
が、やっぱり困った時はトラッカー、出来れば原文で読まなければなりません。
壁にぶち当たったらドラッカー。
それは、社会人となり何十年も地道に続けてきた良き習慣だと思うのです。
今日、改めて思ったのは、やっぱりドラッカーを読もう!ということ。
マネジメントの原理原則に立ち返り、基本に忠実に日々の仕事を進めていくことの重要性。
ドラッカーのマネジメント論は不易。
今だからこそ、もう一度、真摯にドラッカーを読みたいと想う今日この頃です。
テレビを見ていて、興味深いCFを見ました。
上島珈琲の缶コーヒーのコマーシャルです。
少し重たい画像と音楽を使い、「私たちはマーケティングで珈琲を作らない。魂でコーヒーを作る」というもの。
このCFを見て二つの面白さを感じました。
1.マーケットインから再びプロダクトアウトへ
顧客志向や顧客満足などの核としたマーケティングが機能しなくなってきた昨今。
新聞・雑誌・ラジオ・テレビの四媒体が過去のものになりつつあり、インターネット、ブログ、ツィッター等のパーソナルなメディアが強力な媒体となりつつある今。
マーケティングそのものの価値が問われています。
プロダクトアウトはダメで、今からはマーケットインの時代。
ということで30年以上にわたり企業の変革が行われてきました。
しかし、これが効かなくなってきた、ということが言えると思います。
マーケティングの神様フィリップ・コトラー博士もマーケティング3.0というコンセプトを打ち出していますが、具体論、各論まで打ち出せていない状況です。
強みで戦うという点でいえば、自社の強みを自信を持ってプロダクトアウトしていくことは重要です。
マーケットインから少しだけプロダクトアウトの方向に戻して考え抜くことが大切なってきていると考えます。
確かにお客様は神様。
顧客満足が得られない、売上が上がらない、利益が上がらない・・・。
企業は、少し自信喪失の状態にあります。
しかしながら、足元をよく見れば、スゴい技術や人材やノウハウ、技があるはずです。
大手の紳士服チェーンではなく、銀座の路地裏でたくましく生きるテーラーのような職人の技があるはずです。
それをプロダクトアウトしていく・・・。
そういった戦略や戦術もアリだと考えた次第です。
2.対ジョージア戦略
UCCの競合は、何といっても日本コカ・コーラ。
缶コーヒーでいえばアサヒ飲料やサントリー等の競合の厳しい世界です。
日本コカ・コーラの持つ「ジョージア」ブランドは市場を席巻しており、日本全国をカバーするボトラーズの販売力、自販機設置台数など他社を圧倒しています。
米国じこみのMBA流のマーケティングを駆使してさらなる市場制覇を目指しているのです。
その動きに対する挑戦状としての「わたしたちはマーケティングでコーヒーを作らない」というフレーズ。
なかなか優れたコピーライターの作だと思います。
1950年代米国の広告代理店DDB(ドイルデーンバーンバック)社が行ったレンタカー会社エイビスのキャンペーンを彷彿されます。
万年業界2位の同社は「われわれはナンバー2。だから精一杯がんばります!(We try harder!)」をキャッチフレーズを打ち出します。
動かないワイパー、汚れた灰皿は許せないといった例示をあげながら、おまけに、「カウンターでの行列はありません」といったジョークも入れ込んでいます。
久々に、なかなか活きのいいコピーに出合い、いい気分になりました。
今度、(近くにUCC自販機がないので)コンビニでUCCのNew缶コーヒーを買おうと思います。
作家の村上春樹さんが、反原発というアピール。
ヒロシマ・ナガサキの教訓が活かされず、フクシマの惨事をもたらしたことに警鐘を鳴らしました。
もっと便利に、もっと豊かに・・・このもっともっとが火力や水力よりコストが安いと言われている原子力発電所を作り出し、今回の事態となったと言及。
また、評論家の天野祐吉さんも「効率」の追及が、今回の事態の端緒であり、効率だけの追及は人々を不幸にする旨の論調を出されていました。
原発推進、原発反対・・・。そのどちらもが最もらしい理由を主張しています。
コストが安い、経済成長を維持する、放射能の危険性、完全なコントロールが出来ない原子炉・・・。
そういった中で最も大切なのに忘れ去られている事があります。
それは、「人」。
心や気持ち、人間性、決して効率的ではない人間の活動・・・。
ヒューマニズムの議論をしていかなければならないと思います。
「能率」という言葉。
米国生まれのエフィシェンシー(効率)が語源ですが、日本人は効率にニンベンを付けて「能率」という言葉に変換しました。
「能率」=「効率」×「人間性」
この夏の電力不足や放射能問題、景気減速・・・といった課題の中、考えなければならない課題、テーマが山積しているように思えます。
「ノリの法則」
遠藤功著
日経プレミアム新書
早大教授でローランドベルガー会長の新著「ノリの法則」。
ノリとは、勢い、流れ、乗りがいい状態。英語で言うとswingということです。
日本の企業や組織に元気や活力がないのは、ノリがないから・・・閉塞感のある職場、無機質な人間関係、コンプラや個人情報保護などの縛り・・・どんどん組織の活力が失われていきます。
わたくし自身も、組織のノリは確かにあると思います。
一人ひとりの個人にとってもノリは重要です。
しかしながら、最近なぜかノらないように、やる気を出させないように、企業内の施策や方針が日々打ち出されています。
中国企業や韓国企業に見られるイケイケドンドンの勢いやノリが見られなくなっているのです。
遠藤氏は六つのノリを産み出す法則を打ち出しています。
何といっても、まずは「動き」「行動」。
経営者は、しっかりとホラを吹き、社員はノリで神輿を担ぐ・・・。
本田宗一郎が浜松の町工場経営者の時にミカン箱の上に立って打ち出した世界最高峰のオートバイレース・マン島TTレースへの参戦。
それが、結果的には現在のへ本田技研工業を産み出しました。
今まで理詰めで経営を語っていた遠藤氏が語る「ノリ」というインタンジブル論だけに、その訴求力は高いと思います。
ダンジリ祭りのような盛り上がり、あるいは花見や祭りの大好きな日本人・・・「ノリ」は大事な経営資源だと思いました。
理詰で経営出来ると考えている方、MBAかぶれ、分析思考の方に、是非とも一読いただきたい一冊です。
いくつになっても、東京ディズニーランドのゲートをくぐる時のドキドキ感は、格別なものがあります。
ウォルト・ディズニーの夢をカタチにした「作り物」の世界にも関わらず、
そこは大人も騙される?完全な非日常空間があるのです。
3.11、東京ディズニーランドでは、キャストの見事なまでの動きで、ゲスト(来場客)の避難誘導を展開。
集団パニックやけが人もなく、ゲストの安全を守りぬきました。
今なお大きなダメージがある浦安地区の惨状を巻き起こした巨大地震の中、東京ディズニーランドも被災。
ニュースでも駐車場をはじめとする液状化による被害をもたらしました。
この困難の中、冷静かつ的確な判断、行動をした東京ディズニーランドのマネジャー、社員、キャストは本当に素晴らしい仕事をされたと思います。
新たなレジェンド(伝説)です。
また、待ちわびているファンのために、早期の復興をとげ開園したスピード感もスゴイと思います。
かって、
ディズニーランドで提供されるサービス・ホスピタリティは、すべてマニュアルで行われているという事がまことしやかに語られていました。
しかしながら、
今回の震災対応の見事さは、日頃の訓練や教育だけでなく、キャスト一人ひとりの使命感や役割認識に根差したマインド部分が大きいと思います。
マニュアルだけでは、決してあれほどの対応ができるとは考えられないからです。
マニュアルをマスターし、日々の仕事をキチンと回す・・・しかしながら、顧客に向いた臨時対応を現場判断で進める・・・。
そこには、ディズニーの理想やビジョンに共感した従業員の役割意識があると思います。
ディズニーランドには、多くのサービス伝説があります。
わたしが感動したのは、有名な「お子様ランチ」事件です。
東京ディズニーランドのレストランに夫婦二人が入店。
それぞれのオーダーの後、お子様ランチをオーダー。
ウエイトレスは、「大人には、お子様ランチをお出しできない」と一度は断るものの、その夫婦の悲しそうな姿に疑問に思い、マネジャーへ相談。
ルールを破り、お子様ランチを提供することにしたのです。
すると、その夫婦は涙を浮かべながら喜んだのです。
その夫婦は、子供を亡くし、その魂とともにディズニーランドをおとずれていたということです。
ウエイトレスは、子供用の椅子を、その夫婦のいるテーブルにさりげなく持って行きました・・・。
真偽のほどはともかく、ディズニーワールドではあり得る話だと思います。
一人のウエイトレスさんの対応は、その夫婦をディズニー教の絶対的な信者に変身させたのです。
顧客接点、真実の瞬間という応用問題を、その場の空気を読みながら、お客様に即興の対応をする。
それが、サービス伝説を作るのです。
米国の百貨店グルーミングデールや世界トップレベルのホテルリッツ・カールトン・・・。
理念・ビジョンと現場力が、今日も伝説、レジェンドを産み出しています。