今日は敬老の日。
新聞によると、1947年(昭和22年)生まれの団塊の世代が65歳をむかえ、高齢化率は過去最高になったとのこと。
いよいよ日本も世界も類をみない老人の国になったということができると思います。
広島の中国新聞社が行っている「ちゅうごく未来塾2020」。
一昨年、その懸賞論文募集で最優秀をいただいたテーマが「長寿ルネサンス中国2020」。
地理的にも歴史的にも豊かなリソースを持つ中国地方を世界で最も高齢者が幸せになるエリアにしようという提言でした。
この際にいただいた賞金30万円。
その全額を中国新聞社社会福祉事業団に寄付させていただきました。
社会の役にたてていただければなあと願っています。
一見、篤志家のようですが、そうではなく、家内のピシャリとした一言でした。
私「30万円ももらったのだから、10万円分は書籍購入、10万円は飲み代、10万円ぐらいは寄付しようかなあ」。
家内曰く「ケチくさいことは言わないで全額寄付しなさい!」。
高齢化が進む日本社会を、よりよきものにするためにも、高齢者、そして若者が活力と元気をもって生きることのできる社会を築いていかなければならないと考えています。
時間的な制限はあるのですが、地元の高齢者NPOへのプロボノとしての支援なども続けていきたいと思います。
昨年書いた上記論文を掲載させていただきます。
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「長寿ルネサンス2020」
2020年10月、中国州の州都H市には、国内外から20万人を超えるシルバー世代が参集した。車いすのお年寄り、杖(つえ)をついた老人、トライアスロンに挑戦する頑強な初老の紳士、欧州ブランドで身を固めた70歳の婦人まで幅広い高齢者層がH空港やJR駅に降り立った。高齢の外国人カップルの姿も目立つ。これをサポートする若年層のボランティア、学生アルバイトは全国から集まり、公的交通機関の乗り降り、会場案内、サービス介護などを実施している。地元のシルバー世代も町内会組織、公民館組織を中心に来客をもてなしている。付き添いで来る高齢者の家族、友人や国内外からのマスメディア取材陣の数は数十万人規模に達している…。
この1カ月間、H市を中心に中国州の各都市で開催される欧米ファッションブランドの高齢者主役のファッションショー、シルバー世代体育大会、和洋楽コンサート、シニア美術展、高齢社会産業見本市などが開催される。中国州は10年前に「シルバー特区」の指定を受け、公共輸送機関やホテル旅館のバリアフリー化、高齢者医療機関と介護施設の整備、ものづくり高齢者の技術技能伝承大学設置、シルバー世代の起業促進などが推進された。今月からスタートする「祭り」は、世界で最も高齢者が活力を持つと言われる中国エリアを象徴するイベントでもある…。
「未来を考える上で、最も確実に言えることは、人口動態の変化である」とマネジメント学者ピーター・ドラッカーは喝破(かっぱ)した。少子高齢化の流れは止めることはできず、日本、特にその縮図でもある中国地方では人口高齢化はそのスピードを増して進行している。従来の問題解決型思考では直面する課題をチカラ技で封じ込めることが第一とされましたが、こと少子高齢化については各国の政策政策もほとんど課題解決に結びついているとは言えない。
中国地方の与件としてのヒト・モノ・カネを考えた場合、少子高齢化の進行を単に止めるのではなく、それを積極的に受け入れ少子高齢化社会モデルの構築に進むほうが効果的、であると考えられる。今まで少子高齢化問題は、高齢者が増加し社会の活力がなくなり国力、産業力などが衰退に向かうというネガティブな言説が中心であった。はたしてそうであろうか?
「生涯現役、日本国内で高齢者が最も輝く地域」「先進諸国が直面する高齢化社会問題を解決する中国州モデル」「日本のとげぬき地蔵」などのビジョンを掲げ、日本中、そして国外からも高齢者が集まる社会の構築が中国地方の活力に繋(つな)がるものと考える。
中国地方の置かれている状況や資源を考えた場合、他の地域から見ても比較優位性を有している。たとえ、それが一見「弱み」に見えるものでも、高齢社会問題から見ると、むしろ「強み」に転じるものもある。
1.海、山、川などの自然に囲まれた自然環境
2.関西圏、九州圏を結ぶベルト地帯上の立地
3.製鉄、自動車、造船などの重厚長大産業立地という産業インフラ
4.政令市・中核市や中堅規模の都市をかかえ、山間部、島しょ部を有している地理的条件
高齢者対応の社会基盤を整え高齢者が住みやすく暮らしやすいエリアを確立することにより、日本国内、そして世界への情報発信が可能となる。①の豊かな自然環境はエコロジー社会の基盤となりうるものであり、宮島、原爆ドーム、石見銀山という世界遺産はシニア世代が好む歴史的資源であるとともに、瀬戸内海・中国山地などはエコツーリズムの格好の舞台装置である。②の中国地方の立地は少子高齢化問題を抱える国内の大都市群という後背地を持つものと解釈できる。③は日本の得意技であるものづくり基盤そのものであり、熟練技能、職人技の伝承地帯ということができる。④は100万人都市から過疎地域までの多様な住環境、生活環境を有するということができる。
高齢者問題の中心は医療問題、介護問題と言われているが、中長期的に考えた場合、同時に検討すべき問題がある。それは、人は健康だけを目的として生きているわけではないという命題である。自己実現、生きがい、働きがいのために、雇用の場や生涯学習の場、生活の場としてのコミュニティーが必要となってくるのである。
以下、中国地方を高齢者活性化ゾーンにするための具体的な将来像を述べてみたい。衣食住、産業雇用、運輸観光、医療などである。
1.地域資源を活用した高齢者ターゲットの衣食住産業の確立
現代の産業社会におけるマーケティングのターゲットは、就業層を前提としている。このため、新商品、新サービスの研究開発は、若年層~中年層を主な対象層としており、これからのボリュームゾーン高齢者層はニッチとなっている。この対象層を高齢者層に切り替えることにより新しい分野の産業が誕生する。
「衣」については、高齢者層を対象としたいわゆる「ジジババ」衣料としてのカテゴリーが存在している。衰退化の著しい中心市街地の商店街のパパママストアーで販売され、まだ表舞台には立っていない。しかしながら、ここに「高齢者層ターゲットのアパレルファッション産業」というポジションを与えた場合、新たな市場が創出される。ファッショナブルな高齢者向けのデザイナーズブランド、高齢者向け保温性、活動性、着替えやすさなどの機能を追求したアパレルの開発、次世代繊維の研究開発、高齢者主役のファッションショーやファッションコーディネートなどの情報発信イベントの定期開催、障害者も含めた着脱容易なフレキシブル衣料の開発などである。この苗床としては、岡山県~備後地域に多数存在する企業向けユニホーム製造業、学生服製造業、備後絣(がすり)製造業、デニム製造業、ジーンズ製造業などがある。中国地方発の「ニュー・シルバー・ファッション」発信のため、シルバーアパレルという新分野の研究所、シンクタンクをコアとした企業連合が考えられる。
「食」については、地産地消を中心とした地場農業、地場漁業の振興が求められる。中国地方の田畑で産出される農産物や瀬戸内海・日本海で行われる近海漁業は日本屈指の豊かな食生活を支えることができる。行政や地場農業協同組合・地場漁協などによる「シルバー向け安全マーク(消化によい、適正カロリーなど)」の指定も効果的である。地域ならではの料理法の普及、特に「おばあちゃんの知恵」レシピの体系的整理、普及も必要である。また、定年退職者や農業従事希望者の農業参加、年金生活をベースとした漁業参加も考えられる。
「住」については、バリアフリー、ユニバーサルデザインを基本とした高齢者の住みやすい住居を増やしていく努力が求められる。エコ対策とともに推進することができる未来型の産業創出の可能性が存在する。
2.高齢者主役の交通運輸手段の整備
スピードと快適さを追求した従来の交通運輸手段から、安全と環境を重視した輸送システムへの転換が地球的規模で求められている。目的地へ早く到着するという目的から、環境に優しくその移動の時間を楽しむこと(景色を楽しむ、他の客との会話を楽しむなど)を狙った交通輸送手段へのシフトが必要である。これは、公的輸送機関が中心となるが、シルバーカーやエコカー開発のため自動車メーカーや部品メーカーの参入も必要不可欠である。広島市や岡山市で市民の足として使われている路面電車、広島市や倉敷市に存在する自動車メーカーや系列会社の存在は、新たなコンセプトの交通輸送手段を研究開発するためのベースとなりうる。
3.国内外から高齢者を呼び込む観光産業
東京巣鴨のとげぬき地蔵は、高齢者の集客力で有名である。宗教的な信仰とその門前町としての商店街の存在がマグネットとして機能しているのである。
中国地方を見た場合、自然環境や立地条件からも高齢者集客のための条件を備えている。世界遺産宮島に代表される寺社仏閣や歴史的な経済遺産としての石見銀山など、観光資源と高齢者に優しい交通輸送手段をセットにすることにより、国内外から高齢者やその家族を集めることが可能となる。
また、高齢者向けの観光資源開発は、エコツーリズムにも結び付く。大規模なエンターテインメント施設開発(遊園地や商業施設など)ではなく、地理歴史研究や情報発信のソフト開発が重要となってくる。
4.よりよき老後をサポートする高齢者医療・介護制度の確立
財政的な理由から老人医療は危機的な状況に直面している。後期高齢者医療制度や健康保険制度の見直しなども緊急な課題となっている。しかしながら、中長期的に見れば、「病気にならない予防医療」「自然なエイジング」という観点からの医療福祉制度の充実が必要不可欠である。中国地方の6大学医学部連携による高齢者医療福祉制度の研究と大学病院による実践化、行動化が求められている。
また、高齢者が主体となり町を運営していくシルバータウン、シルバービレッジも考えられる。年金受給者として政治的な立ち位置を持つ高齢者により、生きがい、働きがいのある住みやすいコミュニティーを創出していく環境を創(つく)り出す。温暖な瀬戸内式気候に恵まれた島しょ部や山間地域に高齢者の経験と知恵を活(い)かしたコミュニティー社会は、国内外からの移住者を呼び込める可能性を有している。
5.生涯現役、生涯学習社会の実現
定年後に訪れる豊富な時間…。働き続けるためにも、地域社会での奉仕活動を続けるにしても知識の更新は重要である。少子化の影響を受け厳しい経営環境にある大学(私立大学経営の難しさで言えば、国内で最も厳しい地域)を活用することにより、高齢者の学びの場、発表の場を創(つく)り出すことができる。また、観光と大学での受講をセットした高齢者向けツアー、大学に隣接した高齢者向け集合住宅などのビジネス機会も考えられる。
急速に進む少子高齢化。その縮図とも言える中国地方における課題解決は、日本のみならず世界的成功モデルとなる可能性を秘めている。