「繁栄を確約する広告代理店DDB」
西尾忠久編著 誠文堂新光社 1700円
ある意味、自分の人生を変えた一冊。
奥付は、昭和41年なので半世紀以上昔のビジュアル本です。
今でもあると思うのですが、神田神保町の波多野書店で1985年頃に購入。
この書店は、マスコミ、広告関係の古書を扱う古本屋さんです。
大学時代にこの一冊に出会い、広告代理店へと進路をとったのです。
DDBとは、ニューヨーク・マジソンアベニューにある広告代理店。
DDBは、当時でいえば新興勢力。
スペースブローカー、タイムブローカーが中心だった米国広告業界に新風を吹き込んだ広告代理店なのです。
「広告はアートである」と主張する社長兼クリエイティブディレクターのウィリアム・バーンバックのもと、ドイル副社長、デーン管理担当副社長のイニシャルを組み合わせ社名を「ドイル・デーン・バーンバック」DDBとしたのです。
DDBの特徴は、広告表現の卓越性と切り口鋭いコピーだと思います。
当時は、売り主導の言葉をちりばめた広告が多かったようですが、DDBでは美麗なグラフィックデザイン、コピーによって見るものに訴求していきます。
そこには、当時躍進中だったSONYのテレビキャンペーンもあります。
1960年代の話です。
「ソニーの5インチテレビ」
SONYの小型テレビの広告では、ユニークなビジュアルに「ドライブインテレビ」「テレフィッシング」「見ながらお洗濯」・・・といったコピーが付きます。
米国人好みのライフスタイルに日本の小型化技術をフィットさせる見事な企画です。
「エイビス」
よく知られたチャレンジャーとしての広告。
エイビスは業界2位のレンタカー会社。
2位というポジションを逆手に取り、「なぜお使いいただきたいか」の理由づけをしていきます。
「we try harder」われわれは業界2位、だすら最善を尽くして努力していきます。
汚れた車内も整備していない車両も許せないのです・・・と展開していきます。
このキャンペーンの最後にエイビスの副社長が登場し、コメントします。
「2位の方が面白いですよ。行先があるのですから」
「イスラエル航空」
パイロットやその母親までも動員した広告キャンペーン。
そのストーリー展開とコミカルなビジュアルに魅了されます。
1ページ大の母親のけな気なビジュアルにコメントが付きます・・・「私の息子はねえ、パイロットなんですよ」
「ジャマイカ観光キャンペーン」
その美しさ、これはもう実物を見ていただくしかありません。
思わずジャマイカに行ってしまいそうな企画です。
「フォルクスワーゲン・ビートル」
これも有名な「lemon」という表現。
ビートルの写真にレモンというコピーがついています。
レモンとは不良品というスラング。
写真では見えないキズがあるので、この車は市場に出さないという主張です。
そのほか、水の節約(空冷式)やアメリカ製であることなどの切り口で次々とクリエイティブが打ち出されていきます。
今でもそうだと思うのですが、アメリカ広告業界は一業一社制。
フォルクスワーゲンを担当すれば同じ業界のフォードの仕事は出来ないのです。
全盛期のDDBでは広告会社からアカウントを指名できたという逸話もあります。
クリエイティブ一本で広告業界を切り崩したDDB、この会社は今でも健在です。
また、同書をまとめた西尾忠久さんは、新進気鋭のコピーライター。
三洋電気宣伝部や日本デザインセンターなどで活躍。米国広告界の最先端情報を日本に輸入した貢献は大だと思います。
「みごとなコピーライター(西尾さんサイン入り)」も同書とともに大事に書棚に入っています。