「能率の父」と呼ばれた能率学者上野陽一が残した「能率10訓」。
目的と手段のバランスを一義とする「能率」コンセプトを明快に示しています。
能率10訓
1. ドンナ イトナミヲ スルニモ ソノ 目的ト 目標トヲ アキラカニ シ マズ コレヲ 確立セヨ. 目的ト 目標ノ ハッキリ シナイ トコロニワ ハゲミガ オコラヌ.
2. ソノ 目的ト 目標ヲ 達スル タメニ モットモ 適合シタ 手段ヲ エランデ コレヲ 実行ニ ウツセ.
3. モシ ソノ 手段ガ 目的ト 目標ニ 適合シテ イナイト アルイワ ムダ アルイワ ムリ ヲ ウム.
4. ヒト・モノ・カネ ヲ ハジメ 時間モ 空間モ コレヲ 十分ニ 活用スル ヨーナ 目的ノ タメニ ツカエ.活用ガ タダシク ナイト ヤハリ ムダ マタワ ムリヲ ウム.
5. ムダト ムリ トワ ソノ 性質 相反シ ヨノナカニ ムラヲ ツクリダス モトニ ナル.
6. ムラガ ヒドク ナルト 大事ヲ オコス. ツネニ ムダヲ ハブキ ムリヲ ノゾイテ ムラヲ スクナク スルコトニ ツトメヨ. コレヲ オコタルト 社会ワ 不安ニ ナル.
7. 能率トワ ムラヲ ヘラシテ スベテノ ヒト ト モノト カネ トガ イカサレテ イル 状態デ アル.
8. スベテノ モノ(ヒト モノ カネ 時間 空間)ヲ イカス モノワ イカサレ コレヲ コロス モノワ コロサレル.
9. 人生一切ノ イトナミガ コノ 能率ノ 主旨ニ モトヅイテ オコナワレ ナケレバ 社会ワ 安定セズ 人類ワ 幸福ニ ナレナイ.
10. ソノ タメニワ 個人モ 家庭モ 企業 ソノ他ノ 団体モ ソノ イトナミヲ 能率的ニ 運営スルコトガ 必要デ アル.
能率十訓は、「能率の父」と呼ばれる上野陽一(1883~1957)が、科学的管理法をベースとして日本的に翻訳された能率の思想と実践を10の短いセンテンスでまとめたものです。
昭和四年、1929年(世界大恐慌)のことです。
テーラーの著作「科学的管理法」が論理的、学術的であるのに対し、ムリ・ムダ・ムラを嫌う上野が最終型としてまとめ上げたのが10の短文形式。
1では目的と目標の重要性とそれらが「ハゲミ(励み)」の土台となること、
2では目的と手段の適合関係とその実行大切であること、
3では目的と手段が適合しないとムダ・ムリを生み出すこと、
4ではヒト・モノ・カネという経営資源のほかに時間や空間も活用する必要性があること、
5ではムダとムリは世の中にムラを作り出すということ、
6ではムラがひどくなると大事を起こすこと(社会が不安になる)、
7では能率とはムラを減らし、ヒト・モノ・カネを活かすことであること、
8では全てのものを活かすモノは活かされ殺すモノは殺されること、
9では人生一切に能率が必要であるということ、そして最後に個人・家庭・企業・団体では能率的に運用することが必要であることをまとめています。
生産現場を起点とした科学的管理法が、個人・家庭・企業・団体にまで拡大された日本版科学的管理法にまで拡大したのです。
米国より輸入された理論が、単なる翻訳ではなく意訳され風土に溶け込んだということが出来ると思います。
上野陽一は、心理学を起点として広告心理や消費者行動、商店指導等についての高い専門性を有していました。
能率十訓、3ム(ムリ・ムダ・ムラ)というキーワードなど上野は能率の普及のために誰もが分かりやすい言葉、広告でいうAIDMAの法則、コピーライターとしての訴求技術を想起させます。
上野陽一が研究を続けてきた産業心理学・・・具体的に表出した「能率十訓」だと思います。