中学生の時に初めて読んだ中原中也の詩。
感動したことを覚えています。
ランボーやダダイズム詩人と並ぶ天才的な言葉の魔術師だと思いました。
わたしの上に降る雪は 真綿のようでありました・・・
汚れちまつた悲しみに 今日も小雪の降りかかる・・・
思えば遠くに来たものだ・・・
中也の詩は、今でも時々、自然に口から出てきます。
邦画「ゆきてかえらぬ」を観ました。
詩人・中原中也、小林秀雄、長谷川泰子の三角関係、恋愛関係を見事に描いた作品でした。
本当に暗い・・・映画でした(笑)。
長谷川泰子役、主演の広瀬すずさんの演技は鬼気迫るものがありました。
でも、中也の世界に引き込まれていく彼女の感覚は、とてもシュールな感じでした。
ストーリーの始まりは、大正時代の京都。
20歳の新進女優・長谷川泰子(広瀬すず)は17歳の学生・中原中也(木戸大聖)と出会い、互いに惹(ひ)かれ合った二人は共に暮らし始めます。
その後東京に引っ越した二人。
東京は、モボ・モガ(モダンボーイ・モダンガール)の時代。
ファッションも実にお洒落です。
中也の友人・小林秀雄(岡田将生)が訪ねてきます。
彼は中也の詩人としての才能を誰よりも評価し、中也も批評の達人である秀雄に認められることを誇りに思っていましたが、そんな二人の様子を目にした泰子は一人取り残されたような感覚を抱きます。
しかし秀雄もまた彼女に惹かれていく・・・。
詩人・中原中也と文芸評論家・小林秀雄ら実在の男女3人の物語を描くドラマ。
中也に大きな影響を与えた詩人・富永太郎も登場します。
中原中也が30歳で早世するまでの13年間を辿っていきます。
中也の最後の数年間は、こども(長男・文也)を亡くしたり、詩が書けなかったりと、かなり悲しい状況・・・。
この映画では、風車の付いた空の乳母車で中也の心情を見事に表現していました。
映画のタイトル「ゆきてかえらぬ」は、中也の詩集「在りし日の歌」の中にある作品です。
僕はこの世の果てにいた。陽は温暖に降り注ぎ、風は花々を揺すっていた・・・。
京都での長谷川泰子との楽しい思いでを紡いでいます。
長谷川泰子は、広島市出身、広島女学院を出たお譲さん。
ちなみに陸軍軍医の息子・中也は広島時代、広島女学院幼稚園(現ゲーンズ幼稚園)に通っていました。
泰子は女優を目指し、京都撮影所、東京蒲田撮影所を目指します。
ただ、性格は波瀾万丈・・・今でいう「めんどくさい女」「こじらせ女」と言う感じでしょうか?
監督、脚本も山口市の中也記念館や伝記などをしっかりと読み込み、うまく表現しています。
また、主演の広瀬すずさんの演技もピカイチでした。
監督は根岸吉太郎さん。
根岸監督と「ヴィヨンの妻 桜桃とタンポポ」で組んだ田中陽造さんが脚本を担当。
才能あふれる二人の男の間で揺れ動く女優・長谷川泰子役を「流浪の月」などの広瀬すずさん。
すずさんは超絶美人でもなければ、スタイル抜群でもありませんが、天性の女優オーラを持ち、高い演技力を持つ素晴らしい女優だと思います。
後に詩人として名をはせる中原中也役を「先生!口裂け女です!」などの木戸大聖。
彼の友人で後に日本を代表する文芸評論家となる小林秀雄役を「ゴールド・ボーイ」などの岡田将生。
みなさん、いい仕事をしました。
大学生の頃、中也風の黒帽子をかぶり、黒マントのファッションを楽しんでいた時期がありました。
多感な頃だったんですね(笑)。
ゆきてかえらぬ・・・ちょっと暗くなっちゃいますが、中也ファンには、ぜひ観ていただきたい作品です。
今夜もウイスキーをなめながら、ふたたび中也の世界に浸ろうと思います。