働き方改革法の施行で、同一労働同一賃金や長時間労働の是正などが注目された昨今、ジョブ型雇用、メンバーシップ型雇用というキーワードを目にする機会が増えてきました。
この「ジョブ型雇用」「メンバーシップ型雇用」という言葉を最初に言及したのが著者の濱口桂一郎さんです。
岩波新書から新書新刊が出版されました。
ジョブ型雇用社会とは何か 正社員体制の矛盾と転機
濱口桂一郎著 岩波新書 1020円+税
著者は、労働省、東大客員教授などを経て、労働政策研修機構の研究所長をされている労働法の専門家です。
個人的に大ファンです。
目次
序章 間違いだらけのジョブ型論
第1章 ジョブ型とメンバーシップ型の基礎の基礎
第2章 入口と出口
第3章 賃金 ヒトの値段、ジョブの値段
第4章 労働時間 残業代と心身の健康のはざま
第5章 メンバーシップの周縁地帯
第6章 社員組合のパラドックス
メンバーシップ型雇用は、国際的に見ても稀なガラパゴス人事制度。
新卒一括採用者を企業内教育やOJTでゼロから鍛え、「能力」を評価し、処遇、育成する年功序列、終身雇用制度。
日本の製造業、銀行などが時価総額で世界を制覇した「ジャパン・アズNo.1」時代を人事労務面で支えたと言われています。
いっぽうのジョブ型雇用は、日本以外の欧米、アジア諸国でスタンダードな人事制度。
メンバーシップ型がヒトに賃金についているのに対して、ジョブ型は仕事(会社の「席」)にお金が付いています。
この仕事が出来れば、賃金はいくらとグローバルに相場が決まっています。
したがって、ジョブ型は成果主義ではなく、ヒラ社員まで考課、査定されません。
正社員と非正規社員の格差を埋めるために、ジョブ型雇用にしようという話が日本の企業で出ており、大手企業でもグローバルなジョブ型雇用制度を導入するところが出てきました。
ただし、その多くが様々な矛盾を抱えたまま空中分解するのではないかと思います。
成果主義人事制度の二の舞です。
同書は、第2章、第3章で日本の人事労務管理の歴史を解説します。
今まで断片的な理解しか出来なかったニッポンの人事労務を時系列で説明していきます。
これが、目からウロコでした。
戦後、生活給から始まり、職能資格制度をベースにした職能給、業績を評価する成果主義人事、その失敗・・・職務給やジョブ型も過去何度も導入の検討がされたものの、それが実現しなかった・・・。
歴史を学ぶことは本当に大事だと感じた次第です。
政府の働き方改革法を推進する水町勇一郎東大教授の主張に対しても、(かなりの辛口で)突っ込みが入り、これがなかなか爽快!
読み応えのある部分です。
水町教授の「労働法入門・新版(岩波新書)」にも目を通したいところです。
また、人事労務担当者の方々には、前著の「新しい労働社会―雇用システムの再構築へ―(岩波新書)」、「日本の雇用と中高年(ちくま新書)」もぜひ読んでいただきたい一冊です。
働き方改革法も新型コロナウイルスの影響で少し立ち止まらざるをえませんでした。
オミクロン禍がおさまってくれば、厚労省や労働局、労基署が再び動き出すと思います。
少子高齢化、人口減少も加速していきます。
高齢者、女性、外国人労働者なども含めた次のステージの人事労務制度を構築していかなければなりません。