以前、「ベンチャー」と呼ばれていた新規の起業は、現在では「スタートアップ」と呼ばれるようになりました。
戦後、4回目と言われる起業ブームの中で、会社を興すアントレプレナーが増えています。
そんな状況をアカデミックな立場から解説した新書が岩波書店から出版されました。
スタートアップとは何か 経済活性化への処方箋
加藤雅俊著 岩波新書 1120円+税
著者は、関西学院大学経済学部教授で、今まで15年間にわたりスタートアップについて研究されているそうです。
米国ではスタートアップ研究者の顔ぶれが次々と変わるのに対し、日本のスタートアップ研究者の顔ぶれはあまり変わらないと嘆かれています。
日本のスタートアップ企業数が少ないのも頷けます。
目次
第1部 スタートアップを知る
第2部 スタートアップの登場・成功を探る
第3部 日本のスタートアップを考える
同書では、スタートアップの光と影の解説から始まり、日本のスタートアップの状況についてアカデミックな解説を加えていきます。
日本政策金融公庫や経済センサスなどの統計資料を交えながら、分かりやすい口語体で説明が進んでいきます。
スタートアップの創業時に苦労したことは、「資金繰り」「販路開拓」「税務法務知識不足」がベスト3。
また、経営やマネジメントのノウハウがない「新規性の不利益」、経営資源が少ない「小規模性の不利益」という二重の不利益の中で、起業者は必死で働きます。
また、同書では、起業家の分類をしています。
機会追求型起業家 と 生計確立型起業家
革新型起業家 と 模倣的起業家
連続起業家
社会起業家
ライフスタイル起業家 と ハイブリッド起業家
起業家にもいろいろなタイプがいる・・・今までにない視点で興味深く読むことが出来ました。
同書で、驚いたのが、ユニコーン企業の数。
ユニコーン企業とは、起業して株式時価総額が10億ドルに達した企業群のことです。
米国402社、中国147社、インド36社、ドイツ20社・・・これに対して日本は、わずか5社。
元気のない日本経済を象徴しています。
経営者の学歴については、欧米では修士、Ph.Dなどの大学院レベルが多いのに対して、日本では学部卒が大半を占めています。研究者についても博士号ホルダーが圧倒的に少ないです。
少子高齢化、人口減少、円安進展、国際競争力の低下、物価高・・・。
日本の国力が低下トレンドにあります。
同書では、スタートアップによる経済活性化について明快な結論は出していませんが、起業家、アントレプレナーの輩出は元気のある社会には不可欠だと思います。
中小企業庁のデータによると、長年、廃業率が開業率を上回っていましたが、それが反転しつつあります。
それでも、起業して5年目には半分の企業が退出します。
起業して、順調に成長していく企業は5%程度ではないかと思います。
なかなか厳しい世界です。
現在、診断士として、3社のスタートアップ企業の支援しています。
次々現れてくる壁、壁、壁・・・。
資金繰り、販路開拓、労務管理、商品開発・・・。
ただ、知っていれば回避できることも多々あります。
伴走しながら、知恵と汗を出し、何とか乗り越えて行きたいと思います。