格差と民主主義
ロバート・ライシュ著 雨宮寛・今宮彰子訳 東洋経済新報社 1600円+税
著者のライシュさんは、UCバークレー校教授。
クリントン政権で労働長官を務め、オバマ大統領のアドバイザーとして活躍されています。
著書に「ザ・ワーク・オブ・ネーションズ」「暴走する資本主義」「アメリカは正気を取り戻せるか」等。
リベラルな経済学者です。
目次
1. 不公正なゲーム
2. 逆進的右派の勃興 社会ダーウィン主義の再来
3. 怒りを乗り越えて わたしたちがしなければならないこと
同書は、200ページ程度のボリュームで、挿絵あり、箇条書きありで、とても読みやすくまとめられた一冊です。
トマ・ピケティさんの難解さ、膨大なページと比較して、親近感ありです。
ただ、そのコンテンツはなかなかディープ。
冒頭は、こんなフレーズで始まります。
「ウォール街を占拠せよ(オキュパイ・ウォールストリート)」運動の君たちへ
そして経済と民主主義を私たちの手に取り戻そうとするすべての人に捧ぐ
著者は、まずは、いくつもの点をつなげて考える事の重要性からスタートします。
点描1 この30年間、経済成長による利益のほぼすべてがトップ層にわたっている
点描2 大不況のあとにやってきたのは、活力に欠けた景気回復だった
点描3 政治的権力が上へ上へと移行している
点描4 企業や超富裕層は、税金をより少ししか払わず、より手厚い企業助成措置を受けるようになり、公的規制からもどんどん逃れていく
点描5 政府予算が圧縮されている
点描6 小さくなっていくパイの分け前を求めて、平均的アメリカ人が互いに競争している
点描7 けちけちして、ひねくれた政治が横行する
う~ん、日本でも同じような状況になってきているような気がします。
著者は、ウォール街をカジノ資本主義として切り捨てるとともに、政治が米国を駄目にしていると酷評しています。
同書の中で、一番興味深かったのが、「経済をめぐる10の嘘」。
思わずひざをたたく、フレーズと理由解説が並んでいます。
嘘その1 富裕層は「雇用の創造主」であるから、富裕層に対して減税すれば、みなによい効果を波及させる「トリクルダウン」が発生する。逆に、富裕層に増税すると景気に打撃を与え、雇用の伸びも鈍化してしまう。
嘘その2 法人税を下げれば、企業は雇用を創出し景気も活性化する。
嘘その3 政府の規模を小さくすれば、雇用が増大し景気も好転する。
嘘その4 規制が少ないほど、経済は強くなる。
嘘その5 財政赤字をただちに削減すれば、景気は回復する。
嘘その6 公的医療保険制度であるメディケア(高齢者対象)とメディケイド(低所得者対象)を縮小すべきだ。
嘘その7 われわれのセーフティネットは寛大すぎる。
嘘その8 社会保障制度は、ねずみ講だ。
嘘その9 中低所得者の連邦所得税の負担割合が小さく、人によってまったく所得税を払っていないのは不公平だ。
嘘その10 一律の税率の方が公平だ。
そして、ライシュ教授は続けます。
これらの10の大嘘は、逆進主義者と彼らに近いメディアによって頻繁に繰り返されたために多くのアメリカ人が信じはじめてしまっている。
しかし、これらは、ことごとく嘘なのだ。
アメリカ合衆国では、経済はどんどん不公正なゲームになって、一般人には不利に、トップ層には有利に動いていると指摘する著者。
最終章では、「私たちがしなければならないこと」として、次のようなキーワードをあげています。
行動
リーダーシップ
居心地の良い世界から抜け出せ
現実世界で組織を作る
あらゆる問題に目配りする
継続することの大切さ
民主主義は投票だけではない
米国経済をトレースしているように見える日本。
日本にも、こういう経済学者が欲しいもの。
一読しておきたい一冊です。