毎週郵送される日経ビジネス誌の中に小冊子が入っていました。
「働き方改革 グッドプラクティス2020支援事例集(ダイジェスト版)」
厚生労働省の目玉政策に力を入れ始めたようです。
全ページカラー・・・なかなかチカラが入っています。
このダイジェスト版では、働き方改革で成果を上げている会社、病院、学校など9団体の事例を経営者と社会保険労務士が解説しています。
冒頭には、今野浩一郎学習院大学名誉教授、水町雄一郎東大教授、松浦民恵法大教授の好評が掲載されています。
現在、厚労省では働き方改革を推進するため、社労士による無料の訪問相談サービスを行っています。
労基法や働き方改革法の大幅な改正もあり、どこまで浸透、普及するか、今が大切な時期になっています。
安倍政権時代から、政府、厚生労働省が推進している働き方改革。
今年の4月から中小企業にも適用拡大されています。
年次有給休暇の計画的取得(原則5日間)、長時間労働の是正、同一労働同一賃金の実現・・・。
新型コロナウイルスの影響で、前に進んでいませんでしたが、緊急事態宣言の解除やワクチン接種などでコロナ禍が弱まってくれば、労働局や労基署などの行政も動いてくると思います。
壮大な理念や夢はよく分かるのですが、これを現実のものとしようとすると、これはかなり大変なことになる思います。
さらには、コロナによる景気の後退、求人数の減少、少子高齢化の加速・・・「働くこと」の周辺には人事労務管理の難しい舵取りが求められます。
適応できない多くの中小企業は倒産、人が集まらず人手不足による解散ということになることが危惧されます。
ブラック企業と呼ばれる会社は淘汰されます。
政府の言う「非正規(社員)というコトバをなくす!」
意気込みは伝わってきます。
「不合理な格差」があることも重々理解できるし、現実の職場で何が起こっているかということも分かっています。
政府、厚労省による法改正の条文を読んだとき、最初に思った素朴な疑問が、これってどこから賃金原資を捻出するの?ということ。
生産性を向上させて経営の効率を上げて利益を創出し労働分配率を上げていくことが大切というのは、経営の教科書に書いてあります。
それが出来なくなった日本の企業、組織は、変動費としての非正規社員を増加させ、今や正社員6に対し非正規社員4というところまで来ました。
小泉政権の時に竹中経済担当大臣により勧められた新自由主義の結果です。
パートタイマー、アルバイト、契約社員、派遣社員・・・。
感覚的には、正規社員の半分の賃金で働いています。
そこで浮いたお金を企業は内部留保を回す、正社員でさえ賃上げはしない、成果主義の名のもと月例給、賞与は上げない・・・それを、BSの右下部分に貯め込んでいきました。
平成の時代・・・失われた30年。
この間、米国や欧州の賃金は2倍から3倍に上がりました・・・。
欧米の働き方改革は30年前に実現されています・・・
おいていかれるニッポン。
そんな背景の中から出てきた働き方改革。
今度は、官僚と学者を中心としたテクニカルな改革ということが出来ると思います。
厚労省のホームページにも同一労働同一賃金を自社で進めていくための方法論やツールがアップされています。
職務評価、要素別点数法、ワークシート、均等均衡チェックリスト・・・
これらも学者さんの、机上の空論的なものが多く(失礼!)、現場でそのまま使えるようには思えません。
法律だから当然に遵守しなければなりません。
ある日、パートさんが社長のところへ来て、
「私と正社員のAさんとは毎日同じ仕事をしているのに何で私の給与は半分で、賞与ももらえないんですか?」と質問される・・・。
今回の法改正では、社長は書面を中心に真摯に説明しなければなりません。
このインパクトに対応するためには、経営者・使用者としてやらなければならないことは、多岐にわたります。
対応策1 労使のコミュニケーション・・・もうこうなったらオープンブックマネジメント、経営の透明化で労使がいっしょになって会社を潰さないための協調努力を積み重ねていくしかありません。
対応策2 明快な人事労務制度の確立・・・求められる人材像を掲げ、人事フレーム、賃金表、就業規則などの規程類を整備していかなければなりません。
対応策3 納得度の高い人事評価制度の導入・・・成果を出した人、プロセス努力をした労働者が報われる人事考課制度が必須です。若年層を中心に人が集まる会社にしていかなければなりません。
対応策4 業務改善、効率化による生産性の向上・・・賃金原資を確保するためには生産性を上げて粗利(売上総利益)を上げていくしかありません。限界利益の考え方を社内に浸透させ、RPAやAI、システム情報化などを進めていかなければなりません。
対応策5 労働時間の短縮・・・有給休暇が取れる会社、労働時間が短い会社にしていかなければ、今いる社員が辞めていったり、外から新しい血を入れることが出来なくなってきます。
対応策6 中期経営計画、ビジョンの策定・・・働き方改革を実現するためには少なくとも5年~10年かかります。そのためには、中長期のロードマップが必要で、かつ従業員に浸透させていかなければなりません。
対応策7 女性活躍推進、外国人労働者、高齢者の活用・・・少子齢化により労働力人口が大きく減少していく昨今、新たにヒューマンリソースの獲得は必要不可欠です。
対応策8 アウトソース、外注の活用・・・協力企業とのコラボ、アウトソーシングなどにより、労働力の他社代替化の検討、推進が求められます。最終的には、ドラッカーが提唱した経営機能だけの会社を目指すことです。
対応策9 雇用形態を増やさない・・・労務管理のコストを下げるためにも正社員プラスアルファの雇用形態に抑える必要があります。来年、労働者派遣事業法も改正されるため、派遣社員からパートタイム労働者や有期雇用労働者へシフトしていくことが理想です。
対応策10 社労士やコンサルタントの活用・・・現状最小限に絞り込まれている人事労務スタッフだけで働き方改革の社内整備を進めることは、かなり難しいと思います。間接部門の正社員を増やすことはコストアップに繋がります。外部のチカラを借りることが良いと思います。
対応策11 社長が腹をくくる・・・会社を守る、社員を守る、ゴーイングコンサーンとしてなくてはならない会社にしていくと腹をくくることが必須です。今、コンピニの経営者がたいへんなことになっていますが同じ図式になってくると思います。これから、経営者は労使の間で苦悩する割に合わない仕事になってくると思います。明るく前向きに楽しく会社を引っ張っていく・・・それしか経営者の進む道はないと思います。
社長や人事労務現場での実務力、マンパワー、人員からすると、かなり厳しい状況だと思います。
そのうち、労基署の立入調査や地裁あたりで若手の判事が見せしめ判決を出して、社長や人事労務担当者をビビらせるということも考えられます。
本当に大変な時代になってきました。
働き方改革倒産、同一労働同一賃金倒産を回避していくためにも、社長が先頭に立って会社の方向性を示し労使一体となって会社を存続させていく・・・それしか道はないと思います。
がんはれ!ニッポンの社長さん