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研修開発入門-会社で教える、競争優位をつくる-企業内「研修」は効果があるのか?中原淳東大准教授

2014年12月15日 | 本と雑誌

「研修」・・・やれやれ、手垢のついた、ちょっと情けない言葉です(笑)。

「この忙しいのに、なんで研修なの?」

「2日間、気分転換してきたら・・・」と上司の声。

「この際だから、2日間の研修で、ゆっくり身体を休めてこよう。」

企業内教育の方法は、OJT(職場内訓練)、off-JT(職場外訓練)、SD(セルフディベロップメント・自己啓発)の3つがあると言われています。

研修は、このうちの「off-JT(職場外訓練)」に該当します。

職場から離れて、教室や会議室で講師からのレクチャー、個人研究やグループワーク、ロールプレイングや発表などなど、半日間から1週間の合宿まで、さまざまな「研修」が存在しています。

基本的に、仕事を離れ、非日常空間で新たなインプットや、気づきを得る・・・それが「研修」の持つ大きなメリットです。


巷には、パソコンやタブレット、スマホを使ったいわゆるeラーニングや反転学習、ブレンディング学習がある現代に、なぜ「研修」?・・・

受講者の交通費や宿泊費、講師の講師料、教材費、会場費や食事代・・・そして最大の経費は受講者の人件費ということになります。

それでも、研修は必要なの?という疑問。

 

それでも、企業組織においては、研修は必須なのです。

というか、「研修」以外の方法論は、今のところ存在しないのです。

人と人が同じ場所にいるということの相互作用、文字や映像だけでは腹に落ちない暗黙知、その組織特有の戦略や戦術そして風土や組織文化・・・それらは、集合研修の持つアドバンテージと言えます。

今は少し違ってきましたが、以前、人気と知名度だけで選出されたタレント議員は、「福祉」と「教育」だけを言及する傾向にありました。

それは、高度な専門的知識が必要な外交や財政、防衛や科学技術に関する政策を語ることが出来なかったからだと言われています。

これと同じ理屈で、企業内における研修や教育、人事制度は、サラリーマン・勤め人であれば、誰でも何かを語ることが出来るジャンルと言えます。

人事部が企画した研修や教育にチャチャが入るのも、だれでもそこそこ、それを語れるということに起因してるものと思います。


そんな中、「研修」を取り上げた本格的な一冊が世に出されました。

著者は、東大准教授の中原さん。職場学習論や経営学習論を専門とする若手研究者です。

今回は、350ページにわたる研修をテーマとした入門書を刊行されました。中学生でも理解できる噛み砕いた丁寧な解説が付された書籍です。

*

「研修開発入門 会社で教える、競争優位をつくる」

 中原淳著 ダイヤモンド社 3800円+税

 

「研修」という方法論自体は、戦後、あまり大きな変化は無かったように思います。

講師のインストラクション法、研修技法、受講者同士の相互作用、グループワーク、討議や発表・・・などなど。

研修の効果という観点からすると、高度成長期のイケイケドンドンの時期のスパルタ研修の方が効果性が高かったようにも思えます。

しかしながら、今の時点では、受講者の価値観や感じ方も大きく変わってきています。

講師が一方的に講義を中心に進める・・・講師が上から目線で指導する・・・そうなると、受講アンケートは講師批判に溢れ企画した人事部能力開発担当はたいへんなことになります(笑)。

今の時代、受講者と講師は対等・・・いや、受講者が主役でなければならないのです。

顧客満足(CS)ならぬ、受講者満足、学習者満足が求められているのです。

今回取り上げた「研修開発入門」でも、学習者のプロファイリングというセッションを設けています。


著者の中原さんは、「5K」で受講者を分析することが大切だと書かれています。

 「経験・keiken」

 「知識・knowledge」

 「言葉・kotoba」

 「権限・Kengen」

 「肝・kimo」・・・もっとも知りたいこと・主要な興味関心

なるほど、事前の受講者を把握することは、研修の成功に必要不可欠。学習効果、研修効果を高めるための必須の項目なのです。

 

目次

第1章 研修開発とは何か?

第2章 研修企画 ニーズを知る、学習者を分析する、同じ船に乗ってもらう

第3章 研修のデザイン1 課題を分析し、行動目標を立て、評価方法を考える

第4章 研修のデザイン2 一日を組み立てる

第5章 研修講師選定 教える人をいかに確保するか?

第6章 研修のPRと事前のコミュニケーション戦略

第7章 研修準備 研修の事前のデザイン

第8章 研修実施 教える事の技法1 オープニング編

第9章 研修実施 教える事の技法2 メインアクティビティ編

第10章 研修実施 教える事の技法3 クロージング編

第11章 研修フォローとレポーティング

第12章 人材開発のプロとして、いかに学ぶか

 

また、研修を受講する学習者のモチベーションを高める3つの意味づけもなかなか興味深いものでした。

1.価値づけ・・・研修内容が自分の仕事に役立ちそうだ

2.効力づけ・・・やればできそうだ

3.支援づけ・・・講師は最大限支援してくれそうだ

 

簡単なことを簡単に説明するのは、なかなか難しいものです。

同書は、この難しさに挑戦した一冊だと思います。

第8章から第10章は、ぜひとも目を通していただきたいセッション。

ちょっとお高めの価格ですが、

人事部やライン部門で教育や研修に携わってきた方には、一読いただきたい「研修開発入門」です。

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