人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

指揮台から落ちた指揮者の話~井上道義=新日本フィル・ライブ

2011年05月06日 07時12分33秒 | 日記
6日(金)。きのうのブログで指揮台から落ちた指揮者がいるという話を紹介しました。きょうはその話を書きます。事件は1999年9月30日に起きました。当時、新日本フィルは井上道義が指揮をして「マーラー・チクルス」を挙行しました。マーラー生誕140年を直前にしての連続シリーズです。第1番から第9番までの交響曲とピアノ四重奏曲を取り上げ、しかも全曲ライブ録音してCD化するということでした。もちろんマーラー大好き人間の私はその定期会員になり、毎回すみだトリフォニー・ホールに通いました。交響曲は第1番から順番に演奏されました。

その第1夜「交響曲第1番”巨人”」の日のことです。ライブ録音するということもあって、オーケストラ側も、聴衆側も緊張に満ちていました。演奏開始に当たって場内アナウンスが流れます。「本日の公演はライブ録音します。ケータイ電話、アラーム付時計をお持ちのお客様は電源をお切りください」。

第1楽章冒頭の緊張感に満ちたバイオリンの弱音が流れ、クラリネットによる”カッコウ”の鳴き声が続きます。滑り出しはいい感じです。ところが、演奏後5分もたたないうちに1階席中央右のやや後ろ側の席から”トルルルル”というかすかなケータイ着信音が聴こえてきたのです。管楽器の何人かも気がついたらしく首をかしげて客席の方を見ています。

そのうち、指揮者の井上が「あー」という大声を発して、指揮台から左側に転げ落ちて仰向けになってしまったのです。演奏は中断され、井上はおもむろに立ち上がって舞台の袖に引っ込んでしまいました。場内は騒然となり、事情を知らない聴衆は「いったい何があったんだ?」という顔をしていました。しばらくして井上が再登場し、最初から演奏をやり直しました。多分、ライブ録音がなかったら、あのまま中断せずに演奏を続けたのではないかと思います。最初からやり直すために井上は大芝居に打って出たわけです。

井上は当日のやり直し演奏に満足できなかったのでしょう。翌2000年7月29日に定期会員を招待して、もう1度演奏をやり直しました。ライブ録音されたCDは、両日の”いいとこ採り”をしてEXTONから発売されました。解説に井上のコメントが紹介されています。
「あの日は僕がすごいピアニッシモを要求していたこともあったし、それにいろいろなことが絡んで、楽員のみなさんも緊張で息が詰まりそうになっていて、お互い全力を出せなかったという認識があった。ただ、初日の演奏の方がいい部分もあるので、いくつかの箇所は初日のテイクを使って下さいと頼んでいます」

コンサートは何回聴いたかわからないほど聴いてきましたが、指揮者が指揮台から転げ落ちたのを見たのはこの時が初めてです。もう2度とないでしょう









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