3日(月)。わが家に来てから297日目を迎え,あまりの暑さにアサヒ・スーパードライを2本空けてシラを切るモコタロです
2本空けたのは オレじゃねえんだ. 刑事さん,信じてくれ!
閑話休題
昨日、ミューザ川崎で新日本フィルのコンサートを聴きました これは「フェスタ・サマーミューザ2015」の一環として開かれたコンサートです。プログラムは①ヨゼフ・シュトラウス「天体の音楽」、②サン=サーンス「糸杉と月桂樹」、③ホルスト「惑星」より「火星」「水星」「木星」「土星」「天王星」。②のオルガン独奏は松居直美,指揮は井上道義です
午後3時からの本公演に先立って,午前11時半から同じ会場で公開リハーサルが開かれました かなり早くから並んだので2階最前列の通路側席に座りました.ゲネプロなので楽員はカジュアルなスタイルです
西江コンマスがアロハみたいな気軽な格好していたので,最初は西江王子だと気が付きませんでした
私が応援する新人女性3人(古日山倫世,松崎千鶴,脇屋冴子)の姿もあります
井上道義氏が白のTシャツで登場します.シャツのデザインはオリンピックの五輪マークを微妙に変形させて♯と♭をあしらったもので,井上氏自身のデザインとのことです 本人の説明によるとシャープ ♯ が井上の井に似ているので気に入っているそうです
話をしながら口をもぐもぐさせているのでガムをかんでいるのかも知れません.これは一見,オケや客席に対して失礼な態度かと思われがちですが,彼は1年ほど前に咽頭がんの手術をしているので,咽喉を乾燥させないための工夫だと思われます.人は見かけだけで判断してはいけません
その第一声は「みなさん,本番も聴くの?」,「同じ席で聴くの?」でした.リハーサルだけ聴いて本番を聴かない人は多分いないでしょう 分かっていながら聴くのが井上主義です
総合プログラムの新日本フィルのページに首席チューバ奏者の佐藤和彦氏が「ここが一押し」を書いていますが,井上氏はマイクを持って佐藤氏の席まで行ってインタビューを始めます
「チューパの高い音ってどんなの?」「低いのは?」「口で言っても分かんないから吹いてみて」「新日本フィルってどんなオケ?正直に言わなくてもいいからさ」と佐藤氏をいじり倒していました 佐藤氏はソツなく首席らしい態度で応対していました.おとなです
佐藤氏は「ここが一押し」の中で「道義さんの音楽作りには,何が起きるかわからないわくわく感がある.舞台で凄いことが起こり得る指揮者なので演奏する僕たちもそれを期待しています」と書いていますが,まさか,自分に降りかかって来るとは思ってもいなかったでしょう 自業自得です
リハーサルはプログラム順に始まると思っていたら,2曲目のサン=サーンスの「糸杉と月桂樹」から始まりました この曲は後半がパイプオルガンとオケのアンサンブルになるので,2階のオルガン席の松居直美さんと合わせながらリハーサルが進められます
井上氏はかなり頻繁に途中で演奏を止めて,主にオルガンに注文を出していました.自分でも聴衆からしつこいと思われているのではないかと思ったのか,客席の方を振り向いて「なぜオルガンばかりやり直しているかと言うと,今ここでしか出来ないからなんですよ」とエクスキューズを述べていました
前半のリハーサルに50分かけました
10分の休憩後,ヨゼフ・シュトラウスのワルツ「天体の音楽」のリハーサルに移ります この曲では途中で止めることは少なく,流れに任せることが多く見受けられました.そして,最後にホルストの「惑星」に入ります.この曲では比較的頻繁に演奏しては止め,注文を出して,また演奏するといったことを繰り返します.かなり指示が細かいと思いました.後半のリハーサルにも50分強かけました
さて,本番です.自席は2Lb1列13番,2階左サイド最前列右から2つ目です.会場は9割方埋まっている感じです リハーサルで井上氏が指示を出した通り,楽員は舞台袖からだけでなく客席からも登壇し配置に着きます.メンバーはカラーTシャツを着ています.第1ヴァイオリンはブルー,第2ヴァイリンはホワイト,チェロはイエロー,ヴィオラはピンクといったように基本的にはセクションごとに色分けされています
Tシャツの上にサマージャケットを着けた井上氏が登場,1曲目のヨゼフ・シュトラウスのワルツ「天体の音楽」の演奏に入ります ヨゼフ・シュトラウスは”ワルツ王”ヨハン・シュトラウス2世の弟です.聴いていて思わず身体が横に揺れて来るような優雅な曲です.決して兄に負けていないです
2曲目は晩年のサン=サーンスが第一次世界大戦の終戦を記念し,フランス大統領に捧げた作品です 前半はオルガン・ソロによる「糸杉」,後半が戦勝を祝した「月桂樹」から成ります.2階オルガン席に松居直美さんを迎えます.松居さんは鮮やかなブルーの上下で背中がかなり空いています
井上氏がマイクを持って語ります
「松居さんには背中を大胆に見せてほしいと頼んでおいたんですが,ほどほどで・・・・本当はもっと出して欲しかったんですが・・・・」
これを聴いた松居さんは背中で笑っていました オルガン独奏による「糸杉」は圧巻でした
サン=サーンスと言えばオルガンですが,曲自体が素晴らしいと思います
続く後半の「月桂樹」は,オルガンとオケによるコラボレーションですが,聴いていてサン=サーンスの交響曲第3番を思い起こしました.もっと演奏される機会があっても良い曲だと思いました.新日本フィルは迫力に満ちた演奏を展開します
休憩後はホルストの組曲「惑星」の中から5つ選んで演奏します.最初は「火星」です 映画「スター・ウォーズ」を知っていて初めてホルストの「惑星」,とくに「火星」を聴いた人は多分,「ホルストはスター・ウォーズの音楽をパクったんじゃないの?」と疑問を持つのではないかと思います
実際は逆で,ホルストの方がずっと先に作曲しましたから,むしろ,パクったとしたらジョン・ウィリアムズの方です
それほど,曲の表す雰囲気が良く似通っています.まさに”戦争の音楽”です
次の「水星」の演奏が終わると小休止ということで,千葉工業大学・惑星探査研究センター所長の松井孝典氏をゲストに迎え,井上氏がインタビューします この日のプログラムが宇宙にまつわる音楽なので,話題は宇宙,惑星といった内容です.とても面白い内容でしたが,物忘れの激しい私にはここに再現する能力がありません
どういう脈略か忘れましたが,井上氏が,客席に座って出番を待っていた篠原氏を突然名指しして,「篠原さん,こっちに来てここに座ってくださいよ.彼は話が上手いんですよ」と言います.篠原氏はおっとり刀で第2ヴァイオリン後方の所定の席に座ると,井上氏が
「ここで弾くのと,あちらで(前の方で)弾くのとどこが違いますか?」と訊きます.台本にない想定外の質問に,篠原氏は
「皆さん,こんにちは.今日はようこそお越しくださいました.新日本フィルの第2ヴァイオリン奏者の篠原と申します.通称ブタオと申します.よろしくお願いいたします」
と,ソツのない反応を示し会場の拍手を受けます かなり新日本フィル「室内楽シリーズ」のプレ・トークのファンが居るようです
そして,
「かつてフランス・ブリュッヘンさんが指揮をされた時,『ヴァイオリンは後ろの方の演奏者の音が強く出てこないとだめです.トイレット・ペーパーは向こうから前に出てくるから良いのであって,手前から向こう側に引っ込んで行った時にはやりにくくて往生しました』とおっしゃっていました そのようなたとえ話で,弦楽セクションの後方の演奏者がしっかり弾かないといけないということを教えられました
」
と優等生的な回答をして会場の大きな拍手を受け,何かと細かくうるさい井上氏を唸らせました.さすが,トークの天才です
その後,楽員が再度ステージに登場し,「木星」(ジュピター),「土星」,「天王星」を続けて演奏しました 「惑星」が作曲された時はまだ「冥王星」が発見されていなかったので曲になっていません.もっとも冥王星が惑星だったのは2006年までで,それ以降は”準惑星”に格下げされてしまいましたが
「ジュピター」は管弦楽を駆使した熱演でした
最後に,NHK[プロジェクトX 挑戦者たち」のテーマ音楽として中島みゆきが作曲した「地上の星」(2000年)をフル・オーケストラで演奏し,コンサートを締めくくりました クラシックから映画音楽まで幅広く演奏する新日本フィルにとっては朝飯前ですね
何が起こるか分からない,というのが井上道義氏の指揮するコンサートですが,この日は存分にやってくれました 時に彼自身が前面に出過ぎると思うこともありますが,聴衆を喜ばせるというサービス精神の点で言えば,これほど面白いコンサートはありません
オーケストラの楽員にとって,指揮者は立法,行政,司法,マスコミに次ぐ第5の権力なので,何があっても指示には従わなければなりませんが,楽員としては「そんなこと言ってるんだったら,自分でやってみろよ」と言いたくなる時もままあるのではないか,と思います
が,そこは”大人の対応”です.特に新日本フィルは大人の集団ですから,聴衆第一で演奏してくれることを信じております.これまでも,これからも