5日(水)。わが家に来てから299日目を迎え,ご主人さまの大好物”柿の種”を見張るモコタロです
柿の種を 話の種にして 受けようっていうコンタンだな
閑話休題
昨夕、サントリーホールでPMFオーケストラ東京公演を聴きました PMFとは「パシフィック・ミュージック・フェスティバル」の略です。これはアメリカの指揮者・作曲家レナード・バーンスタインの精神を引き継ぎ,夏の札幌で1カ月にわたり世界の若手音楽家を育てる国際教育音楽祭です 今年は世界24か国・地域から85人の若手音楽家がオーディションで選ばれ,そのうち78人がPMFオーケストラ・アカデミーの構成員になっています
当初発表されていたプログラムは下のチラシの通り①ベートーヴェン「ピアノ協奏曲第5番変ホ長調”皇帝”」、②ショスタコーヴィチ「交響曲第10番ホ短調」で、①のピアノ独奏は2015年チャイコフスキー国際コンクール入賞者,指揮はワレリー・ゲルギエフとなっていました
当日会場で配布されたプログラムを見ると,曲目が次のように変更になっていました ①ロッシーニ「歌劇”ウィリアム・テル”序曲」,②ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番ハ短調」,③ショスタコーヴィチ「交響曲第10番ホ短調」,②のピアノ独奏は2015年チャイコフスキー国際コンクール優勝者ドミトリー・マスレエフ,指揮はワレリー・ゲルギエフ.②の曲目変更はコンクール優勝者マスレエフの希望かも知れません
ゲルギエフはマリインスキー劇場芸術監督・首席指揮者,ロンドン交響楽団首席指揮者を務めていますが,今年からミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任します.彼はマリインスキー劇場で,METで活躍している世界的なソプラノ歌手アンナ・ネトレプコをはじめ数多くの名歌手を育て上げています
さて,自席は1階13列13番,左ブロック右から2つ目です.会場はほぼ満席と言っても良いでしょう 在京オーケストラの定期公演と比べると,若い聴衆が多いことが分かります 演奏者が若ければ(多分,平均年齢は20代半ばか)聴衆も若い人が集まるということでしょうか?あるいは指揮者ゲルギエフの魅力でしょうか
拍手に迎えられて若いメンバーが次々と登場します.コンマスは中国人らしき小柄な男子です オケの配置は左から第1ヴァイオリン,第2ヴァイオリン,チェロ,ヴィオラ,その後ろにコントラバスという態勢をとります.ステージは階段状になっていて,後方に行くほど高くなっていますが,東響や読響などのコンサートの時に比べ,後方がかなり高く設定されています.指揮者の意図を確実に後方の演奏者まで伝えるための措置でしょうか
一段と大きな拍手の中,ゲルギエフが登場します 1曲目はロッシーニの歌劇「ウィリアム・テル」序曲です.この序曲は「夜明け」「嵐」「静寂」「スイス軍の行進」の4つの部分から成ります.冒頭はチェロの独奏から入りますが,アジア系の男子による演奏はなかなか聴かせてくれました 「スイス軍の行進」でのトランペットの雄叫びは勇壮でした まずは小手調べと言ったところでしょうか
1曲目が終了後,ステージ上のヴァイオリンセクションの椅子が端にどけられ,左サイドにあったグランド・ピアノがセンターに運ばれます.階段ステージは電動で下げられ,床と同じ高さになったところでピアノが移動します
1988年ロシア生まれ,モスクワ音楽院の大学院を昨年修了したドミトリー・マスレエフがゲルギエフとともに登場します.今年7月1日にチャイコフスキー国際コンクールで優勝したばかりの俊英です
ゲルギエフの合図で第1楽章がピアノのソロから入ってきます ゲルギエフの指揮姿を見ていると,ハンガリー出身の指揮者ゲオルグ・ショルティに似ているなと思います.手先を細かく微妙に動かします マスレエフはゲルギエフにコントロールされたPMFオーケストラに支えられ,ロマン溢れる演奏を展開しました ここまでは,それほど驚くほどのことはなかったのですが,アンコールを聴いてぶっ飛びました
最初にチャイコフスキーの「18の小品」から「踊りの情景,トレパークへの誘い」を,徐々にスピードを上げて見事に弾き切り拍手喝さいを浴びました これでアンコールは終わりか,と思っていると,2曲目にメンデルスゾーン/ラフマニノフの「真夏の夜の夢」から「スケルツォ」を目にも止まらぬ速さで,しかも音楽的に演奏し,会場の聴衆を唖然とさせました 彼にとっては「ピアノ協奏曲第2番」は実力を発揮するには物足りなかったのでしょう.すごいピアニストが誕生しました マスレエフという名前を覚えておこうと思います
休憩後はショスタコーヴィチの「交響曲第10番ホ短調」です.プログラム前半ではタクトを持たずに振っていたゲルギエフですが,後半のショスタコーヴィチはタクトを持って指揮をします.ただし,持っているのかいないのか分からないほど短くて細い,まるで割り箸のようなタクトです
第二次世界大戦後の1945年,ショスタコーヴィチの作曲した交響曲第9番は,ソ連当局が期待していたベートーヴェンの第9のような重厚な曲ではなく,軽く短い曲だったため,当局から批判を受けます それを受けての第10番です.この曲はスターリンが死去した直後の1953年に作曲されました
第1楽章が低弦の重い響きから入ります.日本人女性でしょうか,クラリネットのソロが素晴らしいです 第2楽章は”疾風怒濤”とでも言うか,音楽が疾走していきます ロシアの音楽学者ヴォロコフが1979年に発表した「ショスタコーヴィチの証言」によると,この第2楽章はスターリンを描いたとされています.この”証言”が本当にショスタコーヴィチが述べたのかどうか不明ですが,とにかく勇ましく,目まぐるしく音楽が変化していきます 第3楽章と第4楽章は間を空けずに演奏されます.聴いていて思ったのは管楽器群の素晴らしさです.ホルン,ファゴット,オーボエ,フルート,クラリネット,トロンボーン・・・・・挙げていったらキリがありません それに輪をかけて素晴らしかったのは女性ティンパ二奏者です ショスタコーヴィチ独特のリズムをしっかり捉え,曲に鋭いくさびを打ち込んでいました.まさにエネルギーに満ちあふれた爽快な演奏でした
最後の音が鳴り終ると,会場一杯の拍手とブラボーが飛び交いました ゲルギエフは管楽器をセクションごとに立たせて演奏を讃えます.何回かのカーテンコールが終わると,若き俊英たちは隣同士でハグを交わし,お互いの演奏を讃え合っていました 若さっていいな,と思いました
PMFオーケストラのメンバーの皆さん,躍動感に溢れた感動的な演奏をありがとう 一人として名前を知りませんが,またいつかどこかで皆さん一人一人の演奏を聴く機会を楽しみにしています