人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

上岡敏之+新日本フィルでマーラー「交響曲第6番イ短調」を聴く~渾身のアダージェットも

2017年03月12日 08時28分56秒 | 日記

12日(日).昨日,神保町の三省堂書店の文庫本売り場で 何か面白そうな本はないものか と漁っていた時,スマホにメールが入っているのに気が付きました  当ブログ読者のゆえさんからでした  「夕方のコンサートに急に行けなくなったので 特に予定がなければ代わりに行きませんか」という内容でした  念のため手帳で予定がないことを確かめて「せっかくなので行かせてもらいます」と返信ました 早速最寄り駅で待ち合わせをして,チケットの受け渡しをしました.入った喫茶店がなぜかBGMにクラシック音楽(モーツアルトが多かった!)を流していて いい感じでした ゆえさんとお会いするのは久しぶりだったので,コンサート情報や,自己顕示欲と承認欲求の固まりのサスペンダー爺さんの話や,ゆえさんの仕事や職場の話などで盛り上がりました

ということで,わが家に来てから今日で894日目を迎え,久しぶりに新聞なしで登場するモコタロです

 

       

         今回は大きな新聞ネタがなかったみたいで  男前のぼくひとりが主役で登場だよ

 

  閑話休題  

 

昨夕,すみだトリフォニーホールで新日本フィル特別コンサートを聴きました これは「すみだトリフォニーホール開館20周年記念:すみだ平和祈念コンサート2017」という位置づけの公演です 多くの犠牲者を出した東日本大震災から昨日,3月11日でちょうど6年が経過しました.新日本フィル第4代音楽監督・上岡敏之がこの日のプログラムに選んだのはマーラーの「交響曲第6番イ短調”悲劇的”」です

 

       

 

ゆえさん から頂いたチケットの席は1階8列20番,何とど真ん中の席です.かなり前から根性でチケットを押さえたことが窺えます

さて,東日本大震災のあった2011年3月11日はダニエル・ハーディングが新日本フィルのミュージック・パートナーになる就任披露演奏会で,マーラーの交響曲第5番を振る記念すべき日だったのです 大地震の瞬間,ハーディングは会場のトリフォニーホールに向かうタクシーの中にいたそうです.大震災で東京都内も相当被害が出た中で,何とか会場のトリフォニーホールにたどり着いた100人ほどの聴衆のために,ハーディングはマーラーの第5番を演奏したのです その後,日本の被災者らのためにチャリティーコンサートを開き再度,第5番を演奏しました このことが,ダニエル・ハーディングと新日本フィルの結び付きを特別なものにしました

その6年後の今,音楽監督の上岡敏之がマーラーの第6番を振ることになったわけです

オケはいつもの態勢で,左から第1ヴァイオリン,第2ヴァイオリン,チェロ,ヴィオラ,その後ろにコントラバスという配置をとります その後方には管楽器と打楽器が所狭しとスタンバイします コンマスはチェ・ムンス,右へ山田洋子,吉村知子,ビルマン・聡平,川上徹,富岡廉太郎(客員),脇屋冴子,篠崎友美という並びです

ステージ上には収録マイクが10本ほど林立しています.2階パイプオルガンの左サイドを見ると曲の中で使用するカウベルがスタンバイしています

マーラーの「交響曲第6番イ短調」は1903年から1905年にかけて作曲されました よく言われることですが,この時期 マーラーは妻アルマと結婚したてで幸せの絶頂にありました   この曲は第1楽章「アレグロ・エナージコ,マ・ノン・トロッポ」,第2楽章「アンダンテ・モデラート」,第3楽章「スケルツォ」,第4楽章「フィナーレ:アレグロ・モデラートーアレグロ・エナージコ」の4つの楽章から成ります

上岡敏之が登場,指揮台に上がり第1楽章の演奏に入ります上岡は音楽ライターのオヤマダアツシ氏のインタビューで「この曲は自分で指揮してみて,つかみどころのない難しい曲だなと感じました たとえば第1楽章をどういったテンポで始めるのかということすら迷ってしまいます 葬送行進曲にしては速すぎますし,力が強すぎると戦いへ行く感じになってしまう」と語っていますが,冒頭は肩の力の抜けた中庸なテンポで入りました この人の指揮を見ていて いつも思うのは,気負いがない自然なアプローチで音楽に対峙しているということです 上岡は第1楽章に限らず,クラリネットやオーボエなどの楽器に「ベルアップ」奏法を求めます.これは,楽器の先端を持ち上げて 吹いた音が客席に直接届くようにする演奏法です マーラーは楽譜に指示を書き込んでいます

第1楽章が終了すると,上岡はしばらく間を置きました.時間にすればほんの2~3分程だったと思いますが,忙しい日常生活を送る聴衆にとっては長く感じます この間の取り方は,第1楽章・第2楽章間ほどではないものの,後の楽章間でも見られました 第2楽章は比較的穏やかな曲想です.2階バルコニーのカウベルが鳴らされ幻想的な独特の世界を醸し出します

私が今回の演奏で一番印象に残ったのは第3楽章「スケルツォ」です ある意味,第1楽章冒頭の弦楽器の刻みの変形のような形で力強く入ってきますが,楽章全体は「先が読めない,奇想天外」,英語で言えば「エキセントリック」な音楽に満ち溢れています 私はこれまで何度か第6番を生演奏で聴いてきましたが,今回ほどこの楽章がエキセントリックだと感じたことはありませんでした これまで聴いてきたのは,ある意味 聴き易いようによく整理された演奏だったのに対し,上岡による演奏はエキセントリックな曲をエキセントリックのまま演奏している,という印象です

第4楽章はチェレスタとハープのグリッサンドによって導かれますが,この楽章も,音の強弱だけをとってみてもエキセントリックです さらにこの交響曲が「悲劇的」と呼ばれる根拠であるかのように 木の大ハンマ―による打撃が2回鳴り響きます この時は,床が振動し椅子が微妙に揺れました

最後の音が会場に吸収され,上岡の両手が下されると,しばしの しじまの後,会場割れんばかりの拍手とブラボーがステージに押し寄せました この時,時計を見るとジャスト8時30分でした.偶然とは思えません

 

       

 

「約90分のマーラーの大曲の後はアンコールはないだろう」という大方の予想を(よい意味で)裏切って,弦楽奏者だけでアンコール曲が演奏されました 3.11を意識すれば,バッハの「G線上のアリア」かバーバーの「アダージョ」あたりでしょうが,メインがマーラーです.この曲しか考えられません 巨匠ルキーノ・ヴィスコンティ監督が映画「ベニスに死す」でテーマ音楽として使ったマーラーの「交響曲第5番」の第4楽章「アダージェット」です

上岡敏之は前述のインタビューで「このコンサートを生きている方たちや未来がある方たちに向けてのメッセージにしたい」と語っていますが,そうは言うものの,このコンサートが「3.11  平和祈念」を意識していることから,「過去と現在の延長線上に未来がある.震災で犠牲になった人たちの魂を慰める意味も込めたい」と思ったのではないか,と想像します この「アダージェット」は魂を鎮めるとともに,明るい未来を見通すかのような穏やかでロマンティックな曲想です その意味では,この日のコンサートは,最初から アンコールの「アダージェット」がプログラムに組み込まれていたのではないか,と思います 私の想像が正しいとすれば,もしアンコールを聴かずに帰宅したお客さんがいたら コンサートが完結する前に帰ってしまったことになります  新日本フィルの弦楽セクションの総力を結集した渾身のアダージェットでした

 

       

コメント
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