人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

新国立劇場でドニゼッティのオペラ「ルチア」を聴く~歌手,指揮者+オケ・合唱,演出が3拍子揃った 新国立オペラの史上に残る公演!

2017年03月15日 08時10分55秒 | 日記

15日(水).わが家に来てから今日で897日目を迎え,英議会がメイ首相に欧州連合(EU)離脱を通告する権限を付与する法案について上下両院で再審議し,原案通り可決した というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

       

                        「本当にEUから離脱して大丈夫なの?」と訊かれると「気がメイる」ってさ 

 

  閑話休題  

 

昨夕,初台の新国立劇場で ドニゼッティのオペラ「ルチア」を聴きました キャストは,ルチア=オルガ・ぺレチャッコ=マリオッティ,エドガルド=イスマエル・ジョルディ,エンリーコ=アルトゥール・ルティンスキー,ライモンド=妻屋秀和,アルトゥーロ=小原啓楼,アリーサ=小林由佳,ノルマンノ=菅野敦.管弦楽=東京フィル,合唱=新国立劇場合唱団,指揮=ジャンパオロ・ビザンティ,演出はモナコ生まれ,モンテカルロ歌劇場総監督のジャン=ルイ・グリンダです

私が新国立劇場でこのオペラを聴くのは2002年に次いで2回目です.この年から新国立オペラの定期会員になっているので,その最初の年に聴いたことになります

ほぼ満席の初日公演.一人を除いたすべての聴衆が席に着き,開演前のアナウンスも終わり,オーケストラ・ピットでチューニングが始まろうとしているその時,やってきました,最後の一人 背中に大きな荷物を背負った自己顕示欲と承認欲求の固まり サスペンダー爺さん そんなに目立ちたいのか? 目障りなことこの上ない 四面楚歌なのに本人だけが気が付いていない唯我独尊 私の周りには外国人のお客さんが目立ちましたが,あの行動は奇異に感じるでしょう.爺さんは日本の恥です

 

       

 

物語の舞台はスコットランドのランメルモール地方.領主エンリーコは妹ルチアをアルトゥーロと政略結婚させようとしている ルチアが宿敵エドガルドと愛し合っていると知ったエンリーコは,エドガルドの裏切りを示す偽りの手紙をルチアに見せ,アルトゥーロとの結婚を承諾させる 真相を知らないエドガルドはルチアの裏切りを激しく責める.ルチアは正気を失い花婿を刺殺してしまう 血に染まったルチアが祝宴に現れ,惑乱する意識の中で,エドガルドへの愛を必死に訴え息途絶える.真相を知ったエドガルドはルチアの後を追う

 

       

 

結論から先に書きます この日の公演は新国立劇場の歴史に残る 歌手,指揮者+オケ・合唱,演出が3拍子揃った素晴らしい公演でした

まずジャンパオロ・ビザンティの指揮東京フィルによる「前奏曲」の緊張感に満ちた渾身の演奏が素晴らしい この短い序曲だけでこのオペラの悲劇性が表れていました 演奏の途中で幕が開きますが,目の前に現れたのは大きな岩に波が打ち寄せる海の風景です もちろん,波は映像で映し出されているわけですが,どこまでが本物の舞台で,どこからが映像なのか区別できないほどリアル感があるのです プログラム冊子の「プロダクション・ノート」で,演出家のジャン=ルイ・グリンダが「このプロダクションの舞台美術では『海』が強調されています.オペラの冒頭部分で合唱が『海辺を駆け巡り』と歌うように『ルチア』の物語はスコットランドの海岸を舞台にしており,それは重要な事実だと思うからです」と述べていますが,その考えを生かした舞台作りをしているのです これは単に新奇性を狙った演出とは違い説得力があります

歌手陣は充実しています.まず,ヒロインのルチアを歌ったぺレチャッコですが,ロシアのサンクトペテルブルク生まれのソプラノです マリンスキー劇場の児童合唱を経て,ベルリンのハンス・アイスラ―音楽大学で学んでいます.美しいコロラトゥーラで歌唱力に優れ,演技力も十分です ルチアに成り切って歌い演じているところは,同じロシア出身のMETのディーヴァ,アンナ・ネトレプコによく似ています.彼女のスター性は第2のネトレプコになれるかも知れません

ルチアといえば第3幕の「狂乱の場」ですが,正気を失ったルチアが槍を手にして登場するシーンでは思わずゾッとしてしまいました 槍の先に男の首が刺さっていたからです.これを見てMETオペラ,ゼフィエッリ演出による「トゥーランドット」の冒頭シーンを思い出しました ぺレチャッコの独唱による「狂乱の場」のアリアが12分以上続きますが,この歌に伴うソロは通常フルートで演奏するところを,ドニゼッティが指定した通りグラスハーモニカで演奏しました 実際にはグラスハーモニカよりも大きな音量の現代のガラス楽器『ヴェロフォン』を,製作者のサシャ・レッケルトが演奏しました ぺレチャッコとのアンサンブルは幻想的な雰囲気を醸し出し,ルチアの頭の中の世界を描いているかのようでした

 

       

 

ルチアの恋人エドガルドを歌ったイスマエル・ジョルディはスペイン出身ですが,力のあるテノールで声が良く通りました

ところで第1幕前半の夜の城の場面で,庭園にルチアが現れ,後からエドガルドがやってくるのですが,この衣装が独特でした 男性のエドガルドがチェックのスカートを履き,女性のルチアがズボンにロング・ブーツを履いているのです スコットランドが舞台だという意識に基づいた演出だと思います

ルチアの兄エンリーコを歌ったアルトゥール・ルチンスキーはワルシャワ生まれですが,深みのあるバリトンで説得力がありました

ライモンドを歌った妻屋秀和は新国立オペラではお馴染みのバスですが,何を演じても素晴らしいパフォーマンスを見せてくれます

 

       

 

最後に特筆すべきはジャンパオロ・ビザンティ指揮東京フィル,新国立劇場合唱団の演奏です 「前奏曲」はもちろんのこと,第2幕のフィナーレの,エドガルドが到来した後の六重唱+合唱のコンチェルタート(ゆったりした歌い方で各人が思いのたけを歌う場面)と,それに続くストレッタ(アンサンブルの急速な締めくくり)は高揚感溢れる見事な演奏でした

以上のことを総合して最後にもう一度,結論を書きます.この日の公演は新国立劇場の歴史に残る歌手,指揮者+オケ・合唱,演出が3拍子揃った素晴らしい公演でした

なお,今回このオペラを聴くに当たり,マリア・カラスがルチアを歌うCDで予習しておきました ジュゼッペ・ディ・ステファノがエドガルドを歌い,カラヤン指揮ベルリン・RIAS交響楽団,ミラノ・スカラ座合唱団による1955年ベルリンでのライブ録音です.全盛期のカラスの歌声が聴けます

 

       

コメント (2)
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