12日(水)その2.よい子は「その1」も見てね。モコタロはそちらに出演しています
昨夕、サントリーホール「ブルーローズ」で、クス・クァルテット「ベートーヴェン・サイクルⅣ」を聴きました プログラムはベートーヴェン①「弦楽四重奏曲 第15番 イ短調 作品132」、②「同第13番 変ロ長調 作品130『大フーガ付』」です
ベートーヴェンの後期の弦楽四重奏曲は第12番から第16番までですが、構成楽章は作曲順に第12番 作品127(4楽章)、第15番 作品132(5楽章)、第13番 作品130(6楽章)、第14番 作品131番(7楽章)、第16番 作品135(4楽章)となっています これからも分かるように、後にいくにしたがって楽章が増えていき、最後に元の4楽章に戻っています これだけを取っても、いかにベートーヴェンが最後まで実験精神を失わなかったかが分かります
サイクル4日目の1曲目は「弦楽四重奏曲 第15番 イ短調 作品132」です この曲はルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)が1824年から25年8月までに作曲し、25年11月6日にウィーンでシュパンツィク四重奏団により初演されました 作曲中に持病が悪化したため一時中断されましたが、その後回復し作曲が再開されました 終楽章は当初第9交響曲の第4楽章として構想されていたと言われています
第1楽章「アッサイ・ソステヌート~アレグロ」、第2楽章「アレグロ・マ・ノン・タント」、第3楽章「(病癒えた者の神への聖なる感謝の歌)モルト・アダージョ ~(新しい力を感じて)アンダンテ」、第4楽章「アラ・マルチャ、アッサイ・ヴィヴァーチェ~ピゥ・アレグロ」、第5楽章「アレグロ・アパッショナート」の5楽章から成ります
第1ヴァイオリンのヤーナ・クスのリードで演奏に入りますが、全体を通してイマイチ乗り切っていない”違和感”を感じます これは第1日目、第2日目の前半にも感じたことです 4人はストラディバリウス・コレクション「パガニーニ・クァルテット」を借り受けて演奏していますが、十分に弾きこなされていない、つまり楽器が思うように鳴っていないような気がします これは私だけなのかどうか、分かりません そんな中で、第3楽章「(病癒えた者の神への聖なる感謝の歌)モルト・アダージョ ~(新しい力を感じて)アンダンテ」は、ベートーヴェンが病気から快復したのは神のお陰という、神への感謝の気持ちが表れていて とても癒やされる演奏でした
プログラム後半は「同第13番 変ロ長調 作品130『大フーガ付』」です この曲は1825年8月にウィーンで完成し、1826年3月21日にシュパンツィク四重奏団により初演されました 第1楽章「アダージョ・マ・ノン・トロッポ~アレグロ」、第2楽章「プレスト」、第3楽章「アンダンテ・コン・モート・マ・ノン・トロッポ」、第4楽章「ドイツ舞曲風に。アレグロ・アッサイ」、第5楽章「カヴァティーナ:アダージョ・モルト・エスプレッシーヴォ」、第6楽章「大フーガ」の6楽章から成りますが、各楽章の長さは極端に異なります アルバン・ベルク四重奏団のCDを例に取れば、第1楽章:約10分、第2楽章:約2分、第3楽章:約7分、第4楽章:約3分、第5楽章:約7分、第6楽章:約16分となっています ベートーヴェンが いかに自由に書いているかが分かります
なお、この曲は当初この日の演奏のように、終楽章に「大フーガ」を置いて演奏されましたが、当時の聴衆には難しすぎたため、出版社は楽譜の売れ行きを心配し、ベートーヴェンの仲間を通じて別のフィナーレを書くように依頼した結果、彼はこれを受け入れ、軽快なアレグロのフィナーレを作曲し、「大フーガ」は作品133として単独で出版されました
4人の演奏で第1楽章に入りますが、どうしたことでしょう 前半の第15番とは打って変わって、冒頭からフィナーレまで、4人のアンサンブルは素晴らしく、楽器が良く鳴っていました
この曲はスケルツォあり、ドイツ舞曲あり、カヴァティーナありと各楽章に大きな変化があり、目先がクルクル変わるので聴いている方は楽しくてしかたがありません 第5楽章のカヴァティーナは何度聴いても感動します 宗教的な極致に達した音楽と言えるかもしれません また、第6楽章「大フーガ」は、冒頭から緊張感に満ちた演奏が展開し、ベートーヴェンの厳しさと包容力の大きさを感じました
前述の通り、ベートーヴェンは周囲からの説得により、終楽章の「大フーガ」に代わる「アレグロ」の軽快な音楽を、最後の弦楽四重奏曲「第16番ヘ長調作品135」の後に作曲しました 私は「大フーガ」と同じくらいこの軽快な「アレグロ」が好きです したがって、私の希望としてはサイクル第5回目(最終回)にマントヴァーニの作品を入れるより、第13番の第6楽章を「アレグロ」版で演奏して、「大フーガ」は単独の作品として演奏してほしかったと思います
ところで、休憩後にクス・クァルテットの4人がステージでスタンバイし、第13番の演奏が開始されようとしていた時のことです 彼らが弓を上げようとした時、会場の後方から「ピ ピ ピ ピ ピ」というアラーム音が鳴り出しました ケータイの電源、あるいは時計のアラーム・スイッチを切っていない証拠です ステージ上の4人にもはっきりと聴こえたようで、第1ヴァイオリンのヤーナ・クスさんに至ってはクスっと苦笑し、ヤーナ人ね という表情を見せていました くれぐれもケータイの電源や時計のアラーム・スイッチは事前に切るようにしましょう