9日(日)その2.よい子は「その1」も見てね。モコタロはそちらに出演しています
昨夕、サントリーホール「ブルーローズ」で、クス・クァルテットの「ベートーヴェン・サイクルⅢ」を聴きました これは「サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン2019」の一環として開かれたコンサートです プログラムはベートーヴェン①「弦楽四重奏曲第10番 変ホ長調 作品74 ”ハープ” 」、②「同第11番 ヘ短調 作品95 ”セリオーソ” 」、③「同第12番 変ホ長調 作品127」です
6日の朝日夕刊のコラム「music&theater」欄にクス・クァルテットが取り上げられていました 今回の「ベートーヴェン・サイクル」では、日本音楽財団が所有するストラディバリウス・コレクション「パガニーニ・クァルテット」(ヴァイオリン2挺、ヴィオラ、チェロ)が彼らに貸与されているとのことです これらはパガニーニが所有していたもので、かつて東京クァルテットが愛用していたことでも知られています 今回のチェンバーミュージック・ガーデンでは元東京クァルテットのメンバー、ヴァイオリンの池田菊衛、ヴィオラの磯村和英の両氏が演奏に参加しています ”再会”したら感慨深いものがあるのではないでしょうか
ステージ上の4人の譜面台の後方には集音マイクが林立しています そういえば、ロビーのCD売り場に「本日の公演はライブ録音中。CDの詳細はQRコードから」というお知らせが出ていました どうやら全曲ライブ録音CDを出すらしいです
1曲目は「弦楽四重奏曲第10番 変ホ長調 作品74 ”ハープ” 」です この曲はルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770ー1827)が1809年に作曲、フランツ・ヨーゼフ・フォン・ロブコヴィツ侯爵に献呈されました この作品は「ハープ」という愛称で呼ばれていますが、これは第1楽章でのピッツィカートによる印象的な奏法がハープのように聴こえることから付けられたものです 第1楽章「ポコ・アダージョ~アレグロ」、第2楽章「アダージョ・マ・ノン・トロッポ」、第3楽章「プレスト」、第4楽章「アレグレット・コン・ヴァリアツィオー二」の4楽章から成ります ベートーヴェンの弦楽四重奏曲で唯一、終楽章に変奏曲を置いているのが特徴です
4人の演奏で第1楽章に入りますが、ラズモフスキー弦楽四重奏曲の厳しさとはすっかり変わって、全体的に明るさと優しさに満ちています 第1楽章が楽しく、第4楽章の主題と6つの変奏曲も楽しめました
2曲目は「弦楽四重奏曲同第11番 ヘ短調 作品95 ”セリオーソ” 」です この曲は1810年に作曲され、1814年5月にシュパンツィク四重奏団により初演されました ベートーヴェンと親交のあったハンガリーの作曲家ニコラウス・ズメスカルに献呈されています 標題の「セリオーソ」は「真面目な、厳粛な」という意で、べート―ヴェン自身が自筆スコアに「クァルテット・セリオーソ」と書き込んでいます
第1楽章「アレグロ・コン・ブリオ」、第2楽章「アレグレット・マ・ノン・トロッポ」、第3楽章「アレグロ・アッサイ・ヴィヴァーチェ・マ・セリオーソ」、第4楽章「ラルゲット・エスプレッシーヴォ~アレグレット・アジタート~アレグロ」の4楽章から成ります
第1楽章は4人の奏者の速いテンポで展開する丁々発止のやり取りがスリリングで、緊張感に満ちていました この曲を聴いていて いつも違和感を感じるのは第4楽章のフィナーレです それまでの「厳粛な」路線が、突然、楽観的な曲想に転化し慌ただしく終曲に向かいます 曲を献呈するズメスカルに対する何らかの配慮があったのだろうか 不思議なフィナーレです
最後の曲は「弦楽四重奏曲第12番 変ホ長調 作品127」です ベートーヴェンは、「ミサ・ソレムニス」や「第九交響曲」を作曲した後、弦楽四重奏曲に絞って作曲活動を進めたのですが、第11番「セリオーソ」から10年以上経過した1823年から24年にかけて、ロシア貴族ガリツィン公爵からの委嘱により第13番、第15番とともに作曲されたのがこの作品(後期の第1作)で、1825年3月6日にシュパンツィク四重奏団により初演されました。第1楽章「マエストーソ」、第2楽章「アダージョ・マ・ノン・トロッポ・エ・モルト・カンタービレ」、第3楽章「スケルツォ:ヴィヴァーチェ」、第4楽章「アレグロ」の4楽章から成ります
第1楽章は重厚な和音による短い序奏で始まりますが、後期の傑作の幕開けを告げるかのような堂々たる曲想です 第2楽章のアダージョは素晴らしいですね 私は弦楽四重奏曲に限らず、ベートーヴェンの作品で最も優れているのはアダージョ楽章ではないかと思っています 第13番の第5楽章「カヴァティーナ」にしても、第14番の第6楽章「アダージョ」にしても、しみじみと沁み込んできます かつて、マーラーの交響曲のアダージョ楽章だけを集めたコンピレーションCDがありましたが、ベートーヴェンのアダージョ楽章だけを集めた「ベートーヴェン・アダージョ」コンピレーションCDを作ったら売れるのではないか、と思います
それにしても、と思うのは、この当時ベートーヴェンは難聴で、ほとんど耳が聴こえていなかったはずです。それにもかかわらず、これほど素晴らしい作品群を残していることに驚きを禁じ得ません
3回目のサイクルのこの日、演奏する側のクス・クァルッテットの4人も、聴いている側のわれわれも、会場の雰囲気に慣れてきたように思います