6日(木)その2.よい子は「その1」も見てね モコタロはそちらに出演しています
昨夕、サントリーホール「ブルーローズ」でクス・クァルテットの「ベートーヴェン・サイクルⅡ」を聴きました プログラムはベートーヴェン①「弦楽四重奏曲第7番ヘ長調作品59-1」、②「同第8番ホ短調作品59-2」、③同第9番ハ長調作品5-3」です
この3曲は1806年に作曲されましたが、作品を依頼したウイーン駐在ロシア大使ラズモフスキー伯爵の名を冠して「ラズモフスキー弦楽四重奏曲集」と呼ばれています
この3曲は規模と壮大さにおいて、交響曲で言えば第3番「英雄」に相当するエポックメーキングな先進的な作品です
初演は、ベートーヴェンと親交が深く 彼の多くの作品の初演を行ったヴァイオリニスト、イグナツ・シュパンツィクが率いる四重奏団により行われました
セット券のため、前回と同じセンターブロックの通路から一番奥に入ったど真ん中の席です
1曲目は「弦楽四重奏曲第7番ヘ長調作品59-1」です この曲は第1楽章「アレグロ」、第2楽章「アレグレット・ヴィヴァーチェ・エ・センプレ・スケルツァンド」、第3楽章「アダージョ・モルト・エ・メスト」、第4楽章「ロシアの主題:アレグロ」の4楽章から成ります
4人の演奏で第1楽章に入りますが、何となくアンサンブルがしっくりと合っていないように感じます これは第1日目の第1曲目にも感じたことです
会場の雰囲気に慣れるまである程度時間がかかるのでしょうか
しかし、2曲目の「弦楽四重奏曲第8番ホ短調作品59-2」の演奏に入ると、見違えるような集中力に満ちた演奏に変貌しました
この曲は第1楽章「アレグロ」、第2楽章「モルト・アダージョ」、第3楽章「アレグレット」、第4楽章「フィナーレ:プレスト」の4楽章から成りますが、第1楽章冒頭の渾身の演奏で思わず引き込まれました 第3楽章の中間部に被献呈者ラズモフスキー伯爵を想定して書かれたロシア民謡のメロディーが出てきますが、この演奏が素晴らしかった
そして第4楽章のフィナーレは軽快なテンポによる推進力に満ちた演奏でした
休憩後は「弦楽四重奏曲第9番作品5-3」です この曲は第1楽章「アンダンテ・コン・モート~アレグロ・ヴィヴァーチェ」、第2楽章「アンダンテ・コン・モート・クアジ・アレグレット」、第3楽章「メヌエット・グラツィオーソ」、第4楽章「アレグロ・モルト」の4楽章から成ります
この曲では、第1楽章冒頭の霧の中を進むような漠然とした曲想から開始されますが、この冒頭部分や第8番の第1楽章冒頭部分を聴くと、ベートーヴェンは当時の聴衆から「相当難しい曲を作ったものだ」と思われたに違いない、と感じます
何しろ小学校の音楽教室に掲げられているベートーヴェンの肖像画のような しかめ面をした音楽です
一方、第2楽章の中間部で聴かれるセレナーデのような音楽を聴くと、なぜか月夜を思い浮かべます
とても美しい音楽です
第3楽章から続けて演奏される第4楽章は推進力に満ちたフーガです
急速テンポで演奏される壮麗なフーガは3つの曲を統括するような素晴らしい音楽です
この日のクス・クァルテットの演奏はプログラムが後に行くにしたがって良くなっていったように思います
ところで、「ラズモフスキー四重奏曲」で思い出すのは、あの『モオツァルト』で有名な評論家・小林秀雄がエッセイで触れた文章です エッセイのタイトルも、本の名前も思い出せないのですが、「急にベートーヴェンのラズモフスキー弦楽四重奏曲が聴きたくなって、銀座の楽器店に行った。店員に『ラズモフスキーをくれ』と言うと、『何番にしましょうか』と訊くので、『3つともくれ』と答えた」というような内容だったと記憶しています
ここで私が何を言いたいのか と言うと、その当時、CDはおろかLPさえないSPレコードの時代に、ベートーヴェンの「ラズモフスキー弦楽四重奏曲」が3曲あることを知っていて、それを買おうとしていた事実に驚いたということです 小林秀雄はラズモフスキーを聴いてどういう感想を抱いただろうか? 興味は尽きません