人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

荻原浩著「海の見える理髪店」を読む ~ 直木賞に相応しい6つの家族の感動の物語

2019年06月24日 07時23分46秒 | 日記

24日(月)。わが家に来てから今日で1725日目を迎え、横浜地検による身柄の収容を拒んで、何度も着替えた上に散髪して外見を変えて逃走を続けた小林誠容疑者が、神奈川県横須賀市のアパートの一室で逮捕された というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

       着替えようが散髪しようが 監視カメラを潜り抜けることはできない社会なんだな

 

         

 

昨日、息子が昼食に「盛岡冷麺」を作ってくれました 具が多くて麺が見えませんが、涼しくて美味しかったです 一緒に食べた後、息子は山形に向かいました

 

     

 

         

 

荻原浩著「海の見える理髪店」(集英社文庫)を読み終わりました 荻原浩は1956年埼玉県生まれ。成城大学卒業後、コピーライターを経て、97年「オロロ畑でつかまえて」で第10回小説すばる新人賞を、2005年「明日の記憶」で第18回山本周五郎賞を受賞 2016年に本書「海の見える理髪店」で第155回直木賞を受賞しています

 

     

 

この本は、「海の見える理髪店」「いつか来た道」「遠くから来た手紙」「空は今日もスカイ」「時のない時計」「成人式」の6つの短編小説から成ります

表題作はタイトルのとおり、海の見える理髪店が舞台。有名人も通うという理髪店の評判を聞きつけて「僕」ははるばる訪ねてくる 店主は意外に饒舌で、昔話をし始める。そしていきなり、昔 人を殺したことを語り始める なぜか店主は「僕」の頭の傷の原因を知っていた。その「僕」は評判が高いというだけの理由でこの理髪店に来たのではなかった 二人は初顔合わせだったが、他人ではなかった

「いつか来た道」は、母子の物語。杏子は母との折り合いが悪く、16年前に家を出たまま一度も帰っていなかったが、弟からせっつかれて実家を訪ねることになった 元美術教師で独自の美意識を持ち、子どもに厳しかった母の性癖は変わっていなかった しかし認知症を疑われる母が抽象画に込めた意味を知り、思いを新たにする

「遠くから来た手紙」は、結婚して3年の主婦が主人公。義母とマザコン夫にうんざりして娘を連れて実家に帰った祥子に謎のメールが届く まるで昔の戦中の時候のあいさつめいた旧仮名遣いに祥子は面喰う 一方、実家に隠しておいた、若いころ夫から届いた一連の手紙を読むうちに新たな気持ちが湧いてくる

「空は今日もスカイ」は小学3年生の茜が主人公。父を亡くし母と共に親戚の家に身を寄せる茜は 居心地の悪さから海を目指して家出を決行する 途中で親の虐待から逃げて来た森島陽太に出会い一緒に行動する。行き場を失った二人を助けてくれたのはホームレスの男性だった しかし、彼は誘拐犯と間違われ警察に連れていかれる 茜や陽太の「その人はいい人です」という言葉は無視される

「時のない時計」は商店街の外れにある時計屋に 父の形見の古いブランド物の腕時計の修理の依頼にきた男の話   母親から「お父さん、見栄っ張りだったから、自分の着るものにはぱあっとお金をつかってしまう」と聞かされていたので、それなりの価値があるはずと思っていた   修理した時計を手渡し、18000円を請求した時計屋は最後に冷笑的な言葉をかける

「成人式」は15歳で事故死した娘のことがいつまでも忘れられない夫婦の物語。5年経った現在でも娘が写ったビデオを繰り返し見ているうちに、夫は妻に「このままじゃ、俺たち、だめだ」と言い、娘あてに届いた成人式用の着物のカタログに触発されて、二人そろって晴着を着て成人式に出席することを思い付く そして頭を整え 成人式用の着物を着て、冷笑的な視線を背中に感じながら式場に向かう

どれもが家族を巡る物語ですが、どの作品にも著者の主人公に向けられる温かい眼差しを感じます 最後の「成人式」は暗い話を明るくする内容で、夫婦揃って成人式に出席すると決断した後のストーリー展開は、まさに荻原節全開で思わず吹き出してしまいます

ところで、巻末の「解説」を文芸評論家の斎藤美奈子さんが執筆していますが、冒頭「荻原浩さんと私は、同じ大学の同じ学部、しかも同じ学年だったらしい」と書いています つまり、二人とも成城大学経済学部の卒業生で、荻原氏は”文科系の花形サークル”「広告研究会」、斎藤さんは”ヤサグレ者の吹きだまり”「新聞会」に所属していたとのことです

荻原浩氏は”ついに”「直木賞」を受賞したわけですが、斎藤さんが書いているように「今ごろ直木賞?遅すぎだろっ!」という感じです 一方、斎藤美奈子さんは「文章読本さん江」で小林秀雄賞を受賞するなど、文芸評論家として最前線を行く人です 文芸評論の分野で、親しみやすい文体、分かり易い文章表現において齋藤さんの右に出る人はいないと思います toraブログでは齋藤さん執筆の「文庫解説ワンダーランド」(2017)、「日本の同時代小説」(2018)=共に岩波新書=をご紹介しました 興味のある方は2017年4月11日付(文庫解説ワンダーランド)、2019年1月4日付(日本の同時代小説)のtoraブログをご参照ください

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