人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

黒田祐次著「物語 ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国」を読む ~ ロシアのウクライナ侵攻を受けて今だからこそ読むべき必読書

2022年03月16日 07時22分07秒 | 日記

16日(水)。わが家に来てから今日で2622日目を迎え、ロシアの国営テレビ「第1チャンネル」で、14日夜の看板ニュース番組「ブレーミャ」の生放送中に、同テレビの編集者の女性が「戦争反対。プロパガンダを信じないで。あなたは騙されている」と書かれたポスターを掲げて映り込み、その後 警察に連行されたとAFP通信が伝えた  というニュースを見て感想を述べるモコタロです

 

     

     厳罰覚悟の勇気ある決死の行動だ  ロシア人は彼女の行動を無駄にせず目を覚ませ! 

 

         

 

昨日の夕食は、娘が職場の同僚から仕入れてきた「馬刺し」を「ローストポークとモッツァレラチーズ」「生野菜とハムとクリームチーズのサラダ」「舞茸の味噌汁」と一緒にいただきました 馬刺しは大蒜醤油でいただきましたが、美味しかったです

 

     

 

          

 

黒田祐次著「物語  ウクライナの歴史 ヨーロッパ最後の大国」(ちくま新書)を読み終わりました 著者の黒川祐次氏は1944年愛知県生まれ。東京大学教養学部卒。外務省入省後、在モントリオール総領事、在ウクライナ大使・モルトバ大使(兼務)、衆議院外務調査室長、日本大学国際関係学部教授などを歴任 2004年に12月のウクライナ大統領選挙の際には日本監視団団長を務めた

 

     

 

本書は今から20年前の2002年に刊行され、ロシアのウクライナ侵攻を受けて、2022年3月に第8版が出版されました

本書は次の8章から構成されています

第1章「スキタイ  ー  騎馬と黄金の民族」

第2章「キエフ・ルーシ  ー  ヨーロッパの大国」

第3章「リトアニア・ポーランドの時代」

第4章「コサックの栄光と挫折」

第5章「ロシア・オーストリア両帝国の支配」

第6章「中央ラーダ  ー  つかの間の独立」

第7章「ソ連の時代」

第8章「350年間待った独立」

上記の各章の見出しを見るだけでもウクライナが周辺諸国からの侵略を受けながら、やっと独立を勝ち取ったことが窺えます ウクライナがなぜ侵略を受けてきたかといえば①「ヨーロッパの穀倉」と言われるほど肥沃な大地に恵まれており、耕地面積は日本の全面積に匹敵するほど広大であること、②ロシア、アジアと西欧諸国を結ぶ通路にあり、ウクライナがどうなるかによって東西のバランス・オブ・パワーが変わるという地政学的な重要性を備えていること、が挙げられています こうしたことを反映して、ウクライナは20世紀だけで6回も「独立宣言」を発布しているといいます ①1918年1月=キエフでの中央ラーダの「ウクライナ国民共和国」、②同年11月=リヴィウでの「西ウクライナ国民共和国」、③1919年1月=キエフでのディレクトリア政府と西ウクライナ政府が合併した「ウクライナ国民共和国」、④1939年3月=フストでの「カルパト・ウクライナ共和国」、⑤1941年6月=リヴィウでのOUN(ウクライナ民族主義者組織)によるウクライナ独立宣言、そして⑥ソビエト連邦の崩壊に伴う1991年8月24日の「ウクライナ」独立宣言です

現在ウクライナに侵攻を続け、何の罪もない人々を殺し、世界を大混乱に貶めているロシアのプーチン大統領が、なぜウクライナ、とりわけキエフに固執しているのかについては、第2章「キエフ・ルーシ ヨーロッパの大国」にヒントがあります

ポイントを要約してご紹介すると次の通りです

「キエフ・ルーシ公国は10~12世紀に、当時のヨーロッパの大国として君臨し、その後のロシア、ウクライナ、ベラルーシの基礎を形作った しかし、その後モンゴルの侵攻などでキエフが衰退したのに対し、いわば分家筋のモスクワが台頭し、スラヴの中心はモスクワに移ってしまった ルーシ(ロシア)という名前さえモスクワに取っていかれた。そこで、ウクライナという名前を新しく作らなければならなかった。キエフ・ルーシ公国は、ウクライナの国というよりは、モスクワを中心とするロシア発祥の国として捉えられるようになった しかし、1991年にウクライナがソビエト連邦から独立したことによって、あらためてキエフ・ルーシは誰のものかという問題が浮上するようになった つまり、キエフ・ルーシ公国の直系の後継者はロシアかウクライナかという問題だ

「これはロシアにとっては解決済みの問題だ。ロシア側の言い分はこうである。キエフ公国の滅亡後、ウクライナの地はリトアニアやポーランドの領土となり、国そのものが消滅してしまい、継承しようにも継承者がいなくなってしまった これに対し、キエフ・ルーシ公国を構成していたモスクワ公国は断絶することなく存続して、キエフ・ルーシ公国の制度と文化を継承し、その後のロシア帝国に発展していった。これからみても、ロシアがキエフ・ルーシ公国の正当な継承者であることにはいまさら議論の余地はない

「しかし、ウクライナにとっては、キエフ・ルーシ公国の正当な継承者であるかどうかは、自国が1000年前からの栄光の歴史を持つ国か、またはこれまでロシアの一地方であった単なる新興国かどうかという国の格にも関係する重要な問題だ ウクライナのナショナリストの言い分はこうである。モスクワを含む当時のキエフ・ルーシ公国の東北地方は民族・言語も違い、ようやく16世紀になってフィン語に代わってスラブ語が使われるようになったほどだった。15世紀のモスクワは、キエフ・ルーシ公国の支配下にあった非スラブ諸部族の連合体であり、キエフ・ルーシ公国のシステムとはまったく異なり、別系統の国である

これを読むと、「キエフ・ルーシ公国」に対する両国の解釈の違いが現在も続いていることが分かります プーチン大統領が上記の考えに基づいてウクライナのキエフを重要視していることも分かります

本書では、キエフに残る街の門(キエフの大門)がムソルグスキー「展覧会の絵」の中に取り入れられていることや、キエフ・ルーシ文化史の中に「イーゴリ軍記」(12世紀後半)が残されているが、これをもとにボロディンが歌劇「イーゴリ公」を作曲したことなども紹介されています

また、本書ではウクライナ出身の芸術家を紹介しています 音楽家ではピアニストのウラディミール・ホロヴィッツ、エミール・ギレリス、スヴトスラフ・リヒテル、チェリストのグレゴール・ピアティゴルスキー、ヴァイオリニストのアイザック・スターン、ダヴィッド・オイストラフ、ナタン・ミルシテインといった巨匠たちが名を連ねていて、音楽界だけを取ってみてもウクライナが優秀な民族で成り立っていることが窺えます

著者は最後に、ウクライナと日本の関係について次のように書いています

「ウクライナと日本は、お互いに古い歴史と文化を持ち それを大切に守ってきたこと、とくにコサックと侍は勇気・名誉・潔さなどの共通の価値観を持っており、これが現代にも受け継がれていること、両国とも農業を基礎とした社会であったこと、両国とも石油・天然ガス資源に恵まれていないこと、しかし教育には熱心で教育水準が高いこと、両国が世界で核の悲劇の被害者であったこと、お互いに共通の隣人があり、問題を抱えていること、など共通点がある

最後の「お互いに共通の隣人があり、問題を抱えていること」とは、言うまでもなく、日本ではロシアとの北方領土問題であり、ウクライナではロシアとの政治的な問題です 本書の初版は20年前なので、今の時代に置き換えれば、2014年のロシアによるクリミア半島併合と現在のウクライナへの侵略です

ロシアのプーチン大統領がこれからどうしようと考えているのかまったく分からないので、今後のウクライナ情勢の行方が読めませんが、何の罪もない人々が不条理にも殺されていく事態がいつまでも許されるわけがありません ウクライナ国民だけでなく、ロシア国民を騙し、世界の政治・経済を大混乱に陥れたプーチンは、いつか必ず断罪されることは間違いないと思いますが、それまでわれわれはウクライナのために出来ることをしなければならないと思います そのためにはウクライナの国と歴史を正しく理解することも大切だと思います 本書はその手引きとして相応しい本だと思います。今だからこそ読みたい本です。お薦めします

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