1.ロンバーグ病(パリーロンバーグ病、ロンベルグ病、進行性顔面片側萎縮症) について
ロンバーグ(ロンベルグ)病(別名では、パリーロンバーグ病、進行性顔面片側萎縮症)は、顔の片側が成長とともにだんだんと(進行性に)痩せて、凹んでくる原因不明の病気です。痩せと凹みは、皮膚・皮下組織(皮下脂肪、筋肉、顔面骨)が萎縮してしまうことで生じます。
特に、12-13歳以降の思春期に、片側のいわゆる顔面の三叉神経支配領域といわれる範囲(ひたい・こめかみから下あごにかけての片側顔面全体)に、顔の痩せと凹みが目立ってきます。
重度の場合には、片側の顔以外にも、首から上半身にかけても痩せと凹みが見られます。痩せと凹みの程度と範囲、またその進み具合には、個人差が非常にあります。
通常は、顔面の感覚(三叉神経)や顔の表情(顔面神経)が障害されることはありませんが、痩せと凹みが進行してくると、顔の表情にも障害が出てきます。顔の痩せと凹みの進行が止まるのは、個人差がありますが30歳前後です。
2.私たちの治療方針
進行性の顔面の変形に対して、できるだけ早く改善できる治療を、患者さんとそのご家族のお悩みを伺いながら、積極的に行っております。原則的に、治療は健康保険適応されます。
(1)10歳前後の思春期前に発症した場合
顔面骨は、思春期以降に急速に成長スピードが上がり大きくなります。従いまして、思春期前に発症した場合には、皮膚・皮下組織以外に、顔の土台となる顔面骨の成長も障害されますので、大きな顔面の非対称が生じます。この顔面の非対称は、年齢とともにどんどん悪化します。こめかみが凹み、眼が凹み、頬や下あごがこけ、鼻や口もとが曲がり、かみ合わせがずれてきます。
この場合、単に凹みを治すだけの治療では不十分なことが多く、土台となる顔面骨の位置・大きさの治す治療が必要になります。具体的に歯、変形した顔面骨を切って移動させたり、骨を移植したりします。骨の移動距離が大きい場合は、骨延長術という技術を使う場合もあります。
手術時期は、特に決まってものがありませんが、顔の形が崩れる前の手術をお勧めしております。顔の痩せ、凹み、土台となる骨のズレなどを、ご本人やご家族が気になり始めたら、手術の相談をさせていただいております。成長途中で顔面骨の治療を行っても、成長が終了する18歳以降で顔面骨の変形、かみ合わせに問題が残ることが多く、場合によっては再度骨の形を合わせる手術が必要になる場合があります。
土台となる顔面骨の手術が終わったら、今度は痩せと凹みが目立つ部分に、腹部や太ももから脂肪を吸引して、それを調整した上で、脂肪注入術を行います。私たちの脂肪注入術は、最新の美容外科の技術を用いて行います(microfat grafting技術)。痩せと凹みが小さい場合は1回、大きい場合は、3カ月以上間をおいて、数回に分けて行うと効果的です。脂肪注入術は、体への負担も少なく、手術の傷もほとんど目立たないですし、何度でも行うことができる大変有用な方法です。脂肪注入術にも、健康保険適応が可能です。
これらの手術は、入院して全身麻酔下で安全に行います。手術時間は、症状にもよりますので、1~4時間ぐらいです。退院は、脂肪注入であれば術後1-2日目、骨の移動の手術であれば、腫れが落ち着いた術後5日目以降になります。
(2)思春期以降に発症した場合
思春期以降に、顔の痩せ、凹みが目立ってきた場合、なるべく顔面骨の成長終了する18歳頃までは、痩せや凹みに対して脂肪注入術を行い非対称を改善します。18歳以降に、土台となる顔面骨の非対称が残れば、骨を切って移動させたり骨を移植したりなるべく土台となる顔面骨の形を治す手術を行います。そのあとで、残った痩せや凹みに対して最先端技術を用いて脂肪注入術を行い非対称を改善します。
痩せや凹みが非常に大きい場合、例えば顔面骨の上に皮膚だけが乗っているような状態では、脂肪注入術のみでは十分な治療効果が期待できない場合は、体の脇や太ももの付け根、太ももなどから組織を採取して、これを顔面の皮下に移植します。この場合、やや大きな組織を移植するため、この組織を栄養する動脈と静脈をつけて採取し、顔の動脈と静脈とつなぎます。これを血管付き遊離脂肪弁移植術と言います。
顔面非対称の原因となる生まれつきの病気には、ロンバーグ病以外に第1第2鰓弓症候群、ゴールデンハー(Goldenhar)症候群やトリ-チャーコリンズ(Treacher-Collins)症候群、ナジャール(Nager)症候群の亜系など数多くあります。また成長に伴い生じる顎変形症の中にも、顔面非対称が生じる場合もあります。
私たち以外の施設で、すでに他の施設で治療を受けられてきて、さらに顔の改善を希望される方でも、お悩みを伺い治療の相談をさせていただいております。
治療についてのご相談はこちらをどうぞ。
症例 6歳、女 ロンバーグ(ロンベルグ)病(進行性顔面片側萎縮症)
手術
6歳:右下顎骨骨延長術
17歳:上下顎骨切り移動術と歯科矯正による顔面骨非対称治療
24歳:右眼窩骨上方移動術+右頬骨骨延長術
治療経過:5歳までは顔面の非対称には気付かれませんでした。6歳になり右顔面の特に頬、下あご辺りの痩せ、凹みによる顔面非対称が目立ってきたため、自宅近く病院から紹介されました(A)。成長期前にすでに右顔面全体が萎縮しておりましたので重度のロンバーグ病と診断し、進行性に顔面のバランスがズレていくことを見越して、大きく分けて、顔の土台となる顔面骨の治療と皮膚・皮下脂肪組織の治療の治療を計画しました。
6歳時に、顔面骨骨格の特に右下あごの萎縮、成長不良が認められましたので、右下顎骨骨延長術を行い、右下顎骨を14mm延長しました(B)。
骨延長後は思春期までは、頬、下あご周りの痩せ、凹みはありましたが、16歳以降の成長期のスパートが始まりますと、下顎骨やその他の上顎、頬骨など顔面骨の低成長、委縮およびかみ合わせの崩れが顕著になってきました(C)。
17歳時、顔面土台となる上あごと下あごの曲がりを治すために、上下顎骨切り術を行い、かみ合わせを治しつつ上あごと下あごの関係を水平な位置に移動させました(D)。
18歳時、顔面の土台となる上あごと下あごの非対称性はある程度改善しましたのが、右顔面の皮下組織が足りないことによる顔面の非対称が残りましたので、右の腿の付け根から皮下脂肪組織を採取して、右顔面の皮下に移植(血管付き遊離脂肪弁移植術)しました(E)。
術後は、顔面の非対称に改善が認めまれましたが、顔面骨の成長が終了した20歳以降では、眼の位置やほほの位置を中心に大きな顔面非対称が残ってしまいました(F)。
23歳時、右の眼のくぼみ(眼窩)および右の頬骨を上方ならびに前方に移動させる手術を行いました。(眼窩骨切り移動術+右頬骨骨延長術)。
24歳時、術後1年経過し、移動させた骨は癒合しました。まだ、少し右ほほからあごにかけての痩せが残りますが、今後は痩せの脂肪注入術などで、形を整える予定です。この病気は、30歳頃まで進行しますので、この後も慎重に経過観察が必要となります(G)。
コメント: ロンバーグ(ロンベルグ)病(進行性顔面片側萎縮症)は、発症年齢、萎縮の程度、萎縮の場所などに非常に個人差、バラツキの大きい原因がまだ分かっていない病気です。早い方は、この症例のように5,6歳から顔面の痩せが出てきますが、一般病院では原因不明とされて様々な医療機関を何軒か周りようやく診断がつくことも多いです。成長の早い段階から症状が出てくる場合は、やはり顔面非対称の程度も大きくなり、この症例のように成長に合わせた治療が何度も必要になります。
多くの症例では、顔面骨の非対称が軽度であり、皮膚・皮下組織に委縮や凹みが限局しております。この軽度の場合は、現在の最先端の脂肪注入技術で1回ないしは数回の脂肪注入で顔面の非対称は治療可能となっております。これには、保険適応でも十分に治療が可能です。
重度の場合の治療は、大きく分けて、顔の土台となる顔面骨の治療と表面の皮膚・皮下脂肪組織の治療に分けられます。私たちは、土台となる顔面骨の治療を得意としております。通常は、20歳ぐらいまでに顔面骨の成長が終了しますので、それに合わせて最適なタイミングと最適な治療を主に顔面骨に行います。もちろん、重度の場合は、かみ合わせもズレてきますので、歯科矯正治療が欠かせません。残った皮膚・皮下軟部組織の欠損の治療は、顔面骨の非対称が改善されたその後に行い、最終的なバランスを整えます。顔面骨の非対称が大きく残った状態で、いくら皮膚・皮下軟部組織を移植して補っても、顔がむくみ垂れ下がった状態の顔になりますので、いい結果が得られません。これには、保険適応でも十分に治療が可能です。
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