■訓練する前にまず考えたいこと
「逃げる」を生きる
たとえば高齢化が進むコミュニティで「本当に有効な避難訓練」を実施しようとするとき、「平時」の今と、来るべき「その時」と、「その後」の復興過程と、このすべてをトータルで考える必要がある。「避難学」は、災害から逃れられない地に住まう我々を導く人間科学について、これまでの思想を根本的に転換する必要性を指摘し、かつ現場の実践を具体的に変革するための道すじを示す。
「避難学」は、一言で言えば、避難する当事者、住民の側からの避難についても一番のモチーフになっています。
どのような情報があれば、人は避難するか、避難の必要性を感じてもらえるハザードマップとはどのようなものかなどが論じられてきました。
しかし、それだけでは人々は避難しないことは、これまでの事例からも明らかになってきまいた。
「逃げない」、あるいはもっとじゅうようなな、「逃げられない」という状況が被災地で起きている現実に目を向けるとき、私たちは大切な問題をとりこぼしていることに気付かされます。
「逃げる」ことのできる暮らしや地域社会を私たちはつくってきたか、ということです。
【著者】
矢守克也(やもり・かつや)
京都大学防災研究所巨大災害研究センター教授
1963年生れ。大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得退学。博士(人間科学)。
専門は防災心理学。奈良大学社会学部助教授などを経て2009年より現職。国や地方自治体の検討会や審議会委員、防災学関連学会、心理学関連学会の会長、理事、編集委員などを歴任。『防災人間科学』(東京大学出版会、2009)、『アクションリサーチ・イン・アクション』(新曜社、2018)、『防災心理学入門』(ナカニシヤ出版、2021)など、著書多数。開発した防災アプリ・教材に、「逃げトレ」、「クロスロード」など。
【主要目次】
序論 「逃げる」ための人間科学
第1部 コンセプト(概念)編
第1章 避難学のパラダイムチェンジ-八つの提言
第2章 言語行為論から見た避難情報
第3章 能動的・受動的・中動的に逃げる
第2部 ドリル(訓練)編
第4章 熱心な訓練参加者は本番でも逃げるのか
第5章 ハードルを下げた/上げた避難訓練
第6章 津波避難訓練支援アプリ「逃げトレ」
第3部 マジメント(施策)編
第7章 「自助・共助・公助」をご破算にする
第8章 「地区防災計画」をめぐる誤解とホント
第9章 南海トラフ地震の「臨時情報」
補論1 アフター・コロナ/ビフォー・X
補論2 ボーダーレス時代の防災学-コロナ禍と気候変動災害
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