今日の「お気に入り」は、加島祥造さん(1923- )が訳された『タオ――老子』の第一章です。
これが道(タオ)だと口で言ったからって、
それは本当の道(タオ)ではない。
これが道(タオ)だと名付けたからって、
それは本当の道(タオ)ではない。
なぜって、それが道(タオ)だと言ったり、
名付けたりする君自身が、
道(タオ)にふくまれるからだ。
人間が名付けるすべてのものや、
ものを知ったと思う人間たちの向こうに、
名のない道(タオ)の領域が、はるかに広がっている。
その名のない領域から、
まず天と地が分かれ、
天と地のあいだから
数知れぬ名前がうまれてきたというわけなんだ。
だから、この名のない領域を知るためには、
欲を捨てなければならない。
欲をなくすことで
はじめて真のリアリティが見えるのだ。
人は名のあるものに欲をおこす、そして
名のついた表面だけしか見えなくなるのさ。
名のない神秘の世界と、
そこから出た数知れぬ名のあるもの――
このふたつは、同じみなもとから出てくる。
名がつくことと、つかぬことの違いがあるだけさ。
名のつかぬ領域。
それは、闇に似て、
暗く、はるかに広がっている。
その向こうにも、暗く、はるかに広がっている。
その向こうにも……
それを、宇宙の神秘と呼んでもいい。
その神秘を分けていくとき、人は本物のいのち、
Life Force の入り口に立つのさ。
(加島祥造著「老子と暮らす」光文社知恵の森文庫)