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今日の「お気に入り」は、アイルランドの詩人W.B.イエーツの詩「薄明かりの中へ」(加島祥造さんの翻訳)。
疲れた時代の疲れ果てた心よ、さあ
善悪正邪の編み目をぬけ出て
ここにこないか
夜明けの光のなかで
ふたたび笑わないか、心よ、
朝霧のなかでまた
深い息をしないか
毒舌中傷の火に焼かれ
君の希望は消え去り、愛はくずれさるとも
君の母なる故郷はまだ若いのだ、つねに
朝霧は輝き、薄明かりは銀色なのだ
心よ、ここにこないか、ここでは
丘に丘が重なり
神秘の愛に満ちて
陽と月と森と川が互いに
いつくしみあっているのだ
そして神は彼の淋しい角笛を吹き
時代と時間はひたすら遠くへ飛び去るが
ここでは薄明かりは愛よりも優しく
朝霧は希望より貴重なのだ
(加島祥造著「老子と暮らす」光文社知恵の森文庫 所収)