「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

洋風定食・うさぎ亭 Long Good-bye 2024・09・02

2024-09-02 05:49:00 | Weblog

 

 今日の「 お気に入り 」は 、村上春樹さん ( 1949 -   )

 の随筆「 村上朝日堂  はいほー! 」( 新潮文庫 )

 の中から 作家による「 食レポ 」 。

  備忘のため と 今晩作る料理の参考にするために

 抜き書き 。

  引用はじめ 。

 「『うさぎ亭 』には二種類の料理しかない 。ひと
  つは日替り定食であり 、もうひとつはコロッケ
  定食である 。」

 「 どちらにもしじみの味噌汁とどんぶり一杯の
   キャベツのせんぎりサラダがついてくるのだが 、
   これが滅法うまい 。」

 「 それから ぬかを洗いおとしたばかりの漬物
  たっぷりとついている 。いりたての胡麻をま
  ぶしたホウレン草のおひたしとか 、スパゲッ
  ティーときのこのあえものなんかが小鉢に盛ら
  れて出てくる 。生きているみたいにぴちぴち
  としたスパゲッティーと歯ごたえのある新鮮な
  きのこの酢味噌あえで 、そのへんによくある
  定食屋の間にあわせとはちょっとものが違う 。
  もちろんこういったつけあわせは季節によって
  変化する 。」

 「 それから御飯は麦飯である 。この麦飯がざっ
  くりとした肌ざわりの大ぶりの茶わんで出てく
  ると 、香ばしい麦のにおいが店じゅうにぷん
  とたちこめる 。僕はこの瞬間がたまらなく好
  きである 。お茶はこれもまた香ばしいほうじ
  茶( 夏は冷しはと麦茶 )が出てくる 。わり
  箸は少し深めの色あいのきりっとした杉箸で 、
  箸袋は鶯色の無地の和紙である 。」

 「『 うさぎ亭 』のコロッケのうまさを文章で
  表現するのは至難の業である 。皿にはかなり
  大きめのコロッケが二個盛られて出てくるが 、
  無数のパン粉が外に向けてピッピッとはじけ
  るように粒だち 、油がしゅうしゅうと音を立
  てて内側にしみこんでいくのが目に見える
  これはもう芸術品と言ってもさしつかえない
  だろう 。」
 「 それを杉の箸できゅっと押さえつけるように
  切りとって口にはこぶと 、ころもが かりっと
  いう音を立て 、中のポテトと牛肉は はふはふ
  と とろけるように熱い 。ポテトと牛肉以外
  には何も入っていない 。思わず大地に頬ずり
  したくなるような においたつ じゃが芋 ――
  これは決してオーバーな表現ではない ―― と 、
  主人が厳選して仕入れ 大きな包丁で みじんに切
  った牛肉である 。味つけは材料の良さをいかす
  ためにごくあっさりとしたものになっており 、
  味が足りないと感じる人は自家製のソースをか
  けるようになっている 。ソースは大きな壺に
  入っており 、スプーンでそれをくんでかける
  わけだが 、このソースがまた実にうまい 。
  中にきざんだエシャロットが入っていて 、ち
  ょっと形容のしようのない不思議な味だが 、
  決して味があとに残らないし 、食べ飽きない 。
  僕は二個のコロッケのうち一個をソースなし
  で食べ
もう一個はソースをかけて食べるこ
  とに決めている 。ソースをかけて食べるのも
  もったいないし 、ソースをかけないで食べる
  のももったいないという微妙なところである 。
   食事が終わるとまた新しいほうじ茶が出てく
  る 。」

  引用おわり 。

 (o^―^o) (^▽^)/ (⌒∇⌒)

 ( ついでながらの

   筆者註 :  以下 、作家による「 うさぎ亭 」の説明 。三 、四

      十年前に書かれた作品 ( 小文のタイトルは「『 うさ

      ぎ亭 』主人 」 ) であること 、お引っ越しの多い作

      であることからして 、「 うさぎ亭 」なるおが 、

      2024年の時点で 、現存する可能性はかなり低そう 。

       でも 、そこで出される料理は とてもおいしそう 。      

      「『 うさぎ亭 』は僕のうちの近所にあって 、僕
       はよくここに昼ごはんを食べに行く 。十人客が
       入ればいっぱいになるカウンターだけの小さな店
       だが 、いっぱいになることはまずない 。店構え
       もごく普通の民家みたいだし 、表には看板も出て
       いない 。入口のわきに『 洋風定食・うさぎ亭 』
       という小さな表札がかかっているだけである 。
       要するにすごくひっそりと営業をしているわけだ  。」

      「『 うさぎ亭 』の主人は謎の人である 。歳は
       四十代半ばくらいで 、がっちりとした体つき
       をしており 、愛想は悪くないが無口 、頑固
       だが押しつけがましくないというなかなか好
       ましい性格である 。首筋に五センチばかりの
       長さの刃物によるものらしい傷あとがあるが 、
       自分のことについてはほとんど喋らない 。僕
       としても食べものさえうまければ 、主人の生
       いたちなんてべつにどうでもいい 。」 

      「『 うさぎ亭 』ではいつも主人が一人で働い
       ている 。彼が一人で仕込みをし 、料理を作
       り 、お茶をいれる 。彼の働き方は見た目が
       とても良い 。てきぱきとしていて 、しかも
       あわただしいという感じがない 。」

       以上 。

 !(^^)! 

 

 

( ´_ゝ`)

 

  

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