めでたい話

理事長 丸井一郎です。　

正月はなぜめでたいのでしょうか。めでたくなくてはいけないからです。一年のめぐりのいろいろな行事の中で、正月こそ最大のイベントです。なぜでしょう？

今年も一年を通じて無病息災、豊年満作、商売繁盛であってほしい、いやあるに決まっているから、だから予め祝うのです。予め祝わなければ、せっかくの無病も豊年も繁盛も逃げていく。しかも、そのようにめでたいから祝うと言うより、祝うから、それに応じてめでたいのです。（業界では「予祝」といいます。）

祝うには細やかな工夫が必要です。あちこちに木や花を飾り、社（やしろ）を清め仏壇を荘厳し、手近の産品だけでなく、このときばかりは、遠くからの（世界のヘチからの）到来物も構えて、手を尽くして祝うのが、めでたい、の素（もと）です。　

ただし、これはすべて過去の話。山辺の里芋も磯のエビも手にいる物は本物しかなかったから、偽装なんてしなくてもよかった時代の話。高級料理屋の整形肉もたしかに偽装ですが、ビニール袋に入った絶対に黴びない鏡餅セットの連年使い回しなどは、めでたくない偽装の最たる物でしょう。
　
むかしむかし、明治の頃、「鹿鳴館」の夜会の余興で仮装大会があったそうです。何人かの偉い人たち（むろん男性）は、武者姿で現れたそうです。二重の偽装ですね。本当に身についているはずのない「洋式（洋服）」が今や当たり前だから、もうそんなものは無いはずの古い遅れたいにしえの侍姿が仮装の余興になるはずだ、というはったり。（でも本当は昨日の自分の姿なのですが。）

文明だか文化だかが、そんな風に身に装い取り替えられるものだという思い込みがなければ、「文明開化」も「近代化」もなかったでしょう。偽装は日本近代・現代の根本原理です。食べ物を洋風にして偽装、（でもカレーライスはヨーロッパの食生態にはなかったりして）。みどりなす黒髪を黄色に染めて容姿を偽装、（でも体も頭も中身はそのまま）。自分でない者になりたい、というのがあの時代から、大勢のご先祖様や同胞のご意向のようです。人ごとではないです。謡曲ではなくバッハだったりしますからね。
　　　
では「本物」に近づけばいいのか？でもそれはどこにあるのでしょうか。西空のあなたにないことは、複数の国の費用をいただいて、不肖わたくしが確かめました。西の国の人々も様々な偽装に病んでいます。本物はたぶん足下にあるのではないでしょうか。それも、近代現代化産業化に取り残された、つまり土が壊されていないことろに。たぶん。

猛毒化学物質や遺伝子操作汚染も放射能汚染もない正月を祝いたかったですね。どんなにか。それが今かなわぬなら、いつかかなうよう今年も努力し、働きましょう。ともに。