静岡大学大学院教授 稲垣栄洋先生による
在来作物の講演を拝聴しました。
テーマは、「静岡の在来作物と種から見た現在の野菜」。
腑に落ちる・・・という言葉がありますが、
まさにそう感じたお話でした。
●ふんわり固定種と在来作物
まず、在来作物の定義を見ていきましょう。
今、世間に出回っている種子の大半はF1品種ですが、
F1品種ではなく、農家の方が選抜を繰り返し、
守ってきた品種を固定種と言います。
固定種は、F1品種のように、例えば・・・
・収量が多い
・病気に強い
・大粒のものが採れる
・甘みが強い
といった明確な特徴はありません。
「何となくこんな感じ」といったふんわりした統一感はあるのですが、
そのあたりが曖昧なのが特徴。
そんな固定種の中で
・古い時代から栽培されているもの
・特定の地域で守り継がれているもの
を在来作物と言うことが多いようです。
●食べるたびに味が違う?
私は今まで何回か井川の「おらんど」というじゃがいもを
いただいたことがあります。
ところが、食べるたびに味が違うのです。
貯蔵期間が異なるものはもちろんのこと、
同時期に収穫されたものでさえも、味が微妙に違っていました。
すぐ隣りの畑で作ったものでさえ、味が違うこともあるそうです。
これは、固定種の「ふんわりした統一感」がもたらしているのでしょう。
●面倒くささに付き合えるのか?
在来作物の中には、中山間地でおばあさんがたった一人で
作っているものもあります。
その作物は、おばあさんが亡くなってしまえば、
ひっそりと姿を消していきます。
では、在来作物を守るためにするべきことは何か?
後継者を育てること?
でも、在来作物は、食べ物が少ない地域で、
急斜面の狭い農地を活用し、
それに合った農法で作り続けられてきたものです。
そして、その不安定な味にふさわしい食べ方をされてきました。
つまり、その地域で作り、食べないと、
本当のおいしさがわからないのです。
そこまでの面倒くささに付き合える覚悟がないと
後継者にはなれないでしょう。
●何ができるのか?
農業者でもない私にできることは、
・在来作物が作られている土地に出向くこと、
・そこに暮らす方々の日常に触れること、
・そして、在来作物のお話をできるだけ多くの人に伝えること
でしょうか?
でも、お祭り的なイベントに参加したり、
一度や二度その作物を味わったくらいで、
在来作物が生き抜いてきた歴史、 風土、食文化を
わかったような気になることだけは慎みたいと思います。
在来作物と、それを作り続けてきた人たちに対する
尊厳の気持ちは持ち続けなければならない。
おじいさんの手と小さな種を映したこのスライドが
在来作物のすべてを伝えているようです。
稲垣先生、
そして、この講演会を企画してくださった
「つなぐ はぐくむ 命のたね」の皆さま、
ありがとうございました。