うさぎくん

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カラヤン帝国興亡史

2012年10月03日 | 本と雑誌

前回まとめて読んだ 指揮者の本の続きである。中川氏の本は、前回の「カラヤンとフルトヴェングラー」に続いて2冊目だ。

最初にちょっと思ったのだが、もしかしたらこの本、カラヤンの全盛期を(何らかの形で)知っている人とそうでない人では、受け止め方が違うのかもしれない、ということ。中川氏はカラヤンを、歴史上の人物と同じ方法で描こうとしている、と言われているが、ある程度音楽やレコードのことを知っている人でないと、あるいは、同時代を生きた人でないと、カラヤンの『帝王』ぶりを実感できないかもしれない。

時折、カラヤンとヒトラーの共通性に触れたり、帝国が版図を広げることになぞらえた表現が見られるが、知っている人はそこまで書かなくても実感として理解できるが、知らない人はなにやら極端な表現、と捉えられるのではないか。

もはやCD屋さんに行っても、カラヤンだけが飛び抜けてたくさん売られている、という感覚はなくなってきていているようだ。すこしずつ時代の中に埋もれてきて、遠目にはフルトヴェングラーやトスカニーニのように、かつて一世を風靡した人、という見られ方をし始めている気がする。
これが本物の帝王とか独裁者だったら、そこまで風化はしないのだが。

とはいえ、読み進んでいけば、カラヤンがどれほどの権力を握っていたかがだんだんわかってくるので、それほど心配する必要もないのかもしれない。

あとがきでも触れられているが、この本にはカラヤンの芸術そのものについての記述はない。あくまでもカラヤンの権力掌握と喪失の歴史にこだわって論じられている。それはつまり政治家や「帝王」、いやサラリーマンだって誰でも経験する、権力闘争の普遍的な姿を描く、という事である。この本のおもしろさはそこにある。
ただし、中川氏が「芸術」に触れなかった理由は別にある。

この、中川氏の「あとがき」では、カラヤンは『理想主義者』だったのか、『芸術家』だったのか、について、フルトヴェングラーの著作と、それを論じた三島由紀夫のエッセイを引き合いにして論じている。ここのところが、ものすごく面白かった。

フルトヴェングラーは、リヒャルト・シュトラウスのことを、「彼は芸術家だったから、すなわち行為の人であり、「理想主義者」ではなかった-と著書の中で書いたそうだ。

日本ではふつう、「芸術家は理想主義者」というのが常識と思われている。

フルトヴェングラーがさりげなく触れたこの言葉に驚いた三島は、ワーグナーは理想の劇場など、この世にできるはずがないとわかっていた。だからこそ彼の「理想の劇場」が立ってしまっ
たのだ、と続けている(のだそうだ)。

中川氏は、カラヤンも心の底では理想を追い求めてなどいなかった。ひたすら音楽が好きで、その実現のために、理想主義者のふりをして、人を動かし仕事をやりやすくしただけなのではないか、という。あるいは、彼の生きた時代の政治情勢(ファシズムと共産主義)から、「理想」という言葉の持つ狂気を感じ取り、自らに理想を持つことを禁じたのではないか。

だから、カラヤンの演奏は客観的で、そこが表層的とか深みがないと批判されてきたのではないか、と。

・・・けっこう、難しいですね。ただ、カラヤンが権力を最終目標にしていたのではなく、それこそいい音楽が作れれば権力などどうでも良かった、という解釈には頷けるものがある。

もちろん「芸術家」としてのプライドも強く持っていただろうし、強い嫉妬心も持っていたかもしれない(ショルティが世界初の「指輪」全曲を録音したので、カラヤンが彼を避けるようになった、という記述には笑った。それにしてもショルティという人は、とぼけてるんだかなんだか、妙な愛嬌を感じる)。また、現世的な処世術だって人一倍持っていたのだろう(それがないとオペラができない)。

いくら技量が優れていても、あるいは頭のなかでは素晴らしい演奏を奏でることができても、演奏家は人前で演奏できなければどうしようもないのだ。そういう意味では、フルトヴェングラーの言う、「芸術家は行為の人」というのは、そんなに理解が難しいことではない。何かを残すことのできる力と、現実的能力を持つものが、芸術家と言うことか。
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となりのCDは、この本を読んで聴きたくなった、ショスタコーヴィチの交響曲第10番。「生涯で最高の演奏」という66年ライブではなく、81年のデジタル録音版。さっき1回通して聴いたけど、う~ん、僕には難しすぎるかな?
前回に続き、今回も新宿の中古CD店で買ったけど、考えて見ると昔は中古でCD買ったことは、ほとんどなかったな。新譜で廃盤だといわれても、ここにいくとたいていあるような感じがする。

コメント
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