副題 underground2 村上春樹
村上春樹の作品の中で、この「アンダーグラウンド」関連の本だけは手に取ったことがなかった。いや、正確にはアンダーグラウンドの英訳版は途中まで読んでいる。でも途中で止めてしまった。率直に言ってなんとなく気が重くなる話だったし、そのときは関心が続かなかったと言うこともある。
ただ、今年は(というより今日は)事件から20年という節目でもあり、テレビの報道番組などでも時折取り上げられるなど、久し振りに社会の関心が高まっている。話の種にというのでは大変不謹慎だが、書店で自然とこの本に目が行ってしまい、そのままレジに持ちこんだ。帰りにレストランに寄って、一気に読んだ。
読んでみると、やはり気が重くなる内容で、コメントを書くキーボードも進まない・・。
少しずつ拾い読みしていこう。
村上氏は本書執筆の動機として、あれだけの事件が起こっても、日本社会というメインシステムから外れた人々を受け入れるための、有効で正常なサブ・システム=安全ネットが日本には存在しない、同じような組織がまた登場するかも知れないという危機意識を感じたから、と前書きで触れている。
ここでは日本の話になっているが、こんにちこれは、イスラム過激派として我々の記憶に新しい形で現実に起きた現象を彷彿とさせる。この現象は、日本というある種特殊な社会で起きた現象ではなく、より世界的な現象として広がりつつあるのではないか。むろん、そこにはいろいろの違いはあるだろうし、学問的にはいろいろと考察すべき事もあるだろうけど。
おなじく前書きには、インタビューを続けているうちに、彼らと小説家である自分の共通点と、なにがしかの相違点があることに気づき、それ故彼らに興味を感じたり、いらだちを感じたりした、とも触れている。(この後の対談で、その違いは自分が最終責任を引き受けるか否か、というところにある、としている)。
河合隼雄氏との対談も興味深い。特に悪とはなにか、それは個人単位のものなのかシステム単位のものなのか、悪をどう定義したら良いのか、というくだりは面白かった。
更に、
被害者のサラリーマンが、自分も同じ立場だったら命令を実行していたかも知れないという証言を幾人から聞いた
ストーリー性と子供の話(子供は鉄人28号などのヒーローものに熱中して、それになりきろうとするが、それで2階から飛び降りて死ぬ子供はいない)。
物語の本当の影や深みを出すのはほとんど全部ネガティブなものだ・・そのネガティブなものを抱え、熟成する期間がたっぷりあるほど、それに見合ったポジティブなものが出る・・ポジティブなことを単純に思いついた人の話というのはアホくさくてとても聞いていられません。
・世間を騒がすのはだいたい「いいやつ」なんです。悪い奴って、そんなにたいしたことはできないはずですよ。
・ある時期、人間には冴えて冴えて冴えまくることがあるんです・・それを喜んだ人は全部だめになりますよ。
河合氏は若い頃はもっとわかったようなことを思っていたが、だんだんわからないようになる修行をしてきたのではないかと思う、と言う。
・本物の組織というのは、悪を自分の中に抱えていないとダメなんです。そうしないと組織安泰のために、外に大きな悪を作るようになってしまいますからね。
結局、拾ったのは村上氏のことばと河合隼雄氏との対談ばかりになってしまった。
組織と悪の話は面白かった。企業ももちろん例外ではないからだ。
度々経験するのだが、小さな組織では、誰かをスケープゴートにしてしまうことがある。あれは、小さくてまとまりやすい組織の求心力が生み出した副産物なんだろうな。組織の求心力は、時に自らの首を絞めることがある。そのエネルギーをどう逃がすか・・。