まあちょっと固い話ですが、今日聞いたセミナーの備忘録として。
ただしセミナーの詳細には触れず、個人的な見解で語ります。
以下、ちょっとばかり固いおはなしです。
コロナ後の企業業績は今急回復していて、経常利益などは前年比倍近くになっている(どういう統計かは聞きそびれた)。しかし設備投資や労働分配率を見ていると、逆に非常に低い数字にとどまっている。
というわけで、企業部門から家計部門への所得再分配は進んでいない。
その理由として、企業がたまった利益を、預金などの流動性の高い資産で持つ傾向が非常に強いことがあげられる。このことは日銀の資金循環勘定などで確かめることができる。平成10年ごろからはほぼ一貫してこの傾向が続いている。
他方、設備投資(固定資産投資)は抑制する傾向にある。
かつて、1980年代からバブル最盛期頃までは、企業は固定資産投資に非常に意欲的であったが、2000年ごろからは横ばいになり、最近は減少傾向にある。
固定資産と言っても、土地建物、機械装置などの資産や、投資用の金融商品などもあるが、前者に限って言えば、2000年以降急速に減少している。
これをどう捉えるかだが、一つの見方は企業が資産の価値を高めて生産性を向上させて、資産あたりの収益率を高めることに成功した、という面がある。
もう一つは企業がリスクを避けようとする動きだ。生産設備などの固定資産は、一度投資をすると何かあった時にリスクが高い。既存の設備を改良して収益率を上げ、それに成功している以上、冒険的な投資をすることは合理性が低い。
この傾向は人材投資についても同様で、結果として労働分配率は低い状態で安定してしまった。
これを、企業の縮み志向と片づけるのは簡単だが、もう少し分析してみると、近年の景気循環の変動幅が拡大している、という事実に突き当たる。
世界的な景気変動により、前年比売上高が極端に落ち込むような傾向が強まっている。最近ではリーマンショックはかなりの企業にダメージを与えた。今回のコロナ禍もそうだ。企業は、繰り返し起こるこうした変動を乗り切るため、自然と現在の体制を築いてきたのではないか。
講師の方はこうした観点から、近年声高に叫ばれる所得再分配論は慎重に議論すべき、という立場をとる。
ここには様々な論点や検証すべき概念が盛り込まれていて、とてもここで語りきることはできそうにない。
企業が変動に備えて所得分配を抑制すれば、家計が潤わないので家計も消費に慎重になる。設備投資を請け負う建設、機械などの産業も同様だ。
さらに、企業に投資し経営を付託している投資家たちにも、十分な配当がいきわたらないから、結果としてすべての部門で経済が停滞することになる。
ちなみに企業ガバナンスと企業の流動性志向との関係は明確な傾向がないそうだ。物言う株主の多いアメリカの企業は、概して預金等を多く持たない。
他方、金融機関や事業会社等の持ち株比率が高い企業(いわゆる系列企業、持ち合いの多い企業)は、やはり流動性の高い預金をより少なく持つ傾向がある。つまり、いざというときに助けてもらえる安心感があるらしい。
先週自民党の高市政調会長が、私案として企業預金への課税を検討する、という考えを示した。
もともと企業の内部留保(利益を社員にも株主にも還元せず、企業内部に溜め置くこと)に課税する、という考えは、以前から時折議論にのぼっていた(特定要件下で既に法制化)。
両社は同じ概念ではないが、根元の視点は同じように思える。問題は、企業が自衛のため余裕を持つことが、どの程度まで許されるか、ということだ。