『ペスト』 26 (石あるいは鉄製のそのまがい物の顔をもって、かつての人間であったものの落ちぶれた面影を呼び起こそうと試みている、、、、、)カミュ著 宮崎嶺雄訳
月明かりの空のもとに、町はその家々の白っぽい壁と、直線的な街路-----一本の樹木の黒く はびこった影に汚点(しみ)をつけられることもなく、一人の散歩者の足元にも、一匹の犬の吠え声にも乱されることのない街路-----を連ねている。
静まり返った大都会は、この時もう世紀を失った巨大な立方体にすぎず、その間にあって、忘れられた慈善いえたちや、永久に青銅の中に閉じ紅魔れた、勝手の大人たちの無限の肖像だけが、石あるいは鉄製のそのまがい物の顔をもって、かつての人間であったものの落ちぶれた面影を呼び起こそうと試みている、、、、、
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