乱鳥の書きなぐり

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108; 『「分かち合い」の経済学』 神野直彦 著  2010年 岩波新書  新赤版

2010-07-03 | 読書全般(古典など以外の一般書)



2010年度 108冊目  






           『「分かち合い」の経済学』

  



 神野 直彦 著

 岩波書店

 岩波新書  新赤版1239

 2010年4月20日 

 216ページ 本体 720円 + 税5%

 


 本日二冊は岩波新書の『「分かち合い」の経済学』

 まず初めにスウェーデン語「オムソーリ」という言葉に戸惑い、そして読み進めるうちに納得する。


 次に全ての人に平等に補助金を配る方が格差が減るという内容に反発を感じたが、すぐに「医療費」&「学費」の無料化を記される著者に、いつしかぐいぐいと引き込まる自分に気づく。

 この先生の講義は拝聴したかった。



 構造改革、小泉内閣を経済学者として的確に捉えられる著者。

 格差や貧困問題。経済低迷。

 それらをふまえた上で、「分かち合い」による新しい経済システムを具体的に説明される。

 全てが日本かどうかはわたしにはわからないが、著者のような理想的な社会が築き上げられるのならば、国民もその方向に協力したいと感じさせる。



 本書に大学法人化の問題点を力説されていた。

 何事に置いてもはっきりとご自分のお考えを論証される神野直彦先生。

 素敵な方だ。

 おそらく敵も見方も多い方なのかも知れないと、そんな風に感じた。



 著者 神野直彦先生は魅力的な方で、本書のい締めくくり方が洒落ていて好きだ。

 まずは由比が浜のこと。某作家の好きなわたしには興味深い話だ。

 あとがきの師事されていた先生(及び関係者)教え子、両親、お内儀様に対する思いやりある言葉は感慨深い。

 特に奥様に対しての愛情深く文学的な言葉は、今まで見たどれよりも熱く語らる。

 うらやましく感じ、思わずその場で著者の生年月日を見てしまった。

 著者は1946年生まれだという。

 
 
 妻和子には言葉がない。仕事に出かける私の鞄をいつも持ってくれて、雨降り風吹こうとも駅まで見送ってくれる、年老いたので、今度は私が鞄を持って二人だけの長い旅行の出かけよう。もう仕事も辞めるから、永久の旅路まで魂が永遠に宿るような緑の風に吹かれて過ごそう。そう詫びながら本書を和子に捧げたい。2010年




 タイムリーで内容深い『「分かち合い」の経済学』はまさに旬、お勧めの一冊です。

 
   

■目次
 はじめに

第1章
なぜ、いま「分かち合い」なのか
 
格差、貧困の広がる日本/意図された雇用破壊/破壊される人的環境/人間の絆としての「社会資本」/「オムソーリ」と「ラーゴム」/「「分かち合い」の経済」の二つの側面/「コモンズの悲劇」をどうみるか/財政民主主義の原則/市場経済の拡大と無償労働の減少/新自由主義が家族・コミュニティの復権を説く矛盾/

第2章
「危機の時代」が意味すること―歴史の教訓に学ぶ
 
「分かれ路」としての「危機」/恐慌が起きるメカニズム/産業構造の行き詰まりと大不況/「パクス・ブリタニカ」の終焉/「パクス・アメリカーナ」の形成と「ブレトンウッズ体制」/重化学工業を基盤として/所得税・法人税を基幹税として/再分配と経済成長の「幸福な結婚」/ケインズ的福祉国家へ/1973年の「9.11」/石油ショックの勃発/「パクス・アメリカーナ」の解体へ/新自由主義の拡大/福祉国家から「小さな政府」へ/「無慈悲な企業」の限界/必要なのは知識社会へ向けた技術革新/いま新しい産業構造を形成するとき

第3章
失われる人間らしい暮らし―格差・貧困に苦悩する日本
 
「小さな政府」でよいのか/「企業は大きく、労働者は小さく」の結末/日本は「大きな政府」だったのか/擬似共同体としての日本企業/家族・共同体が担っていた生活保障機能/「日本型福祉国家」の内実/日本は平等だったのか/現金給付型からサービス提供型の社会保障へ/日本の社会保障をどうみるか/二極化する労働市場―改善されない女性の労働・生活/貧困な教育サービス/格差・貧困を克服できない現状

第4章
「分かち合い」という発想―新しい社会をどう構想するか
 
新しい社会ヴィジョンを描くために/知識の「分かち合い」/生産と生活の分離/間違った大学改革のゆくえ/競争原理ではなく協力原理/家族内での「分かち合い」/コミュニティでの「分かち合い」/人間の再生産としての社会システム/「国民の家」としての国家/競争と「分かち合い」の適切なバランス/再分配のパラドックス/垂直的分配と水平的分配/いま、「分かち合い」を再編すべきとき

第5章
いま財政の使命を問う
 
財政の使命とは/創り出された財政収支の赤字/「均衡財政」「小さな政府」というドグマ/否定される二つのドグマ/「小さな政府」で経済成長が実現できるのか/「小さな政府」でも財政支出は抑制できない/「経済的中立性」のドグマ/増税への抵抗感の内実/日本の税制の矛盾

第6章
人間として、人間のために働くこと
 
労働規制をどうみるか/市場原理主義の神話/市場原理と民主主義の相違/自己の利益と他者の利益/分断される正規従業員と非正規従業員/労働市場の二極化を克服する三つの同権化/同一労働、同一賃金の確立/フレキシキュリティ戦略に学ぶ/スウェーデンにみる積極的労働市場政策/ワークフェア国家への転換/経済成長の進展と格差・貧困の抑制を両立

第7章
新しき「分かち合い」の時代へ―知識社会へ向けて
 
ポスト工業化への動き/知識社会への転換/大量生産・大量消費からの脱却/知識社会の産業構造/知識社会のエネルギー/人間的能力向上戦略/生命活動の保障戦略/社会資本培養戦略/ネットの張替え/予言の自己成就

 あとがき

   
詳細

深刻な経済危機が世界を覆っている。
不況にあえぐ日本でも失業者が増大し、貧困や格差は広がるばかり。
この「危機の時代」を克服するには、「痛み」や「幸福」を社会全体で分かち合う、新しい経済システムの構築が急務だ。
日本の産業構造や社会保障のあり方を検証し、誰もが人間らしく働き、生活できる社会を具体的に提案する。

深刻な経済危機が世界を覆っている。この「危機の時代」を克服するには、他者の「痛み」を社会全体で分かち合う、新しい経済システムの構築が急務だ。誰もが人間らしく働き、生活できる社会を具体的に提案する。

   

著者紹介

神野直彦[ジンノナオヒコ]
1946年埼玉県生まれ。1981年東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。大阪市立大学助教授、東京大学教授、関西学院大学教授などを経て、東京大学名誉教授、地方財政審議会会長。専攻は財政学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

   

深刻な経済危機が世界を覆っている.不況にあえぐ日本でも失業者が増大し,貧困や格差は広がるばかり.この「危機の時代」を克服するには,他者の「痛み」を社会全体で分かち合う,新しい経済システムの構築が急務だ.日本の産業構造や社会保障のあり方を検証し,誰もが人間らしく働き,生活できる社会を具体的に提案する



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