今回は研究論文のご紹介を。
高知大学が、「木質バイオマス発電事業への供給を想定した架線集材による広葉樹皆伐作業の生産性と収支」という論文を森林利用学会誌(第31巻2号P85-91)で報告されていました。
色々と課題のある木質バイオマス発電事業。
広葉樹資源に手を出している方、出すことを考えている方もいるかと思います。(個人的には、何でもかんでも広葉樹を未利用材に含んでいいものなのか、という疑問を持っていますが・・・)
今回、広葉樹を皆伐・架線集材した場合の生産性と収支に関する調査報告で、いい調査だな~、参考になるな~と思ったので、簡単に内容を整理して、ご紹介します。
ちなみに、原文を一字一句書き写したものではなく、個人的に分かりやすいかな~という表現に修正している箇所もあります。
なので、以下の内容に誤りがあった場合、著者ではなく、僕個人の読解力不足による誤りですので、その点はご容赦下さい。
【目的】
高知県では、薪炭林放棄地など未利用広葉樹林の割合が多く、このような広葉樹林を団地化し、森林経営計画を立て、認証未利用材としての利用が検討されているとのこと。
そこで、木質バイオマス発電への出荷を目的とした広葉樹林の皆伐による生産性や収支に関する試験を行うことに。
【調査内容】
架線は、エンドレスタイラー式(3胴集材機、直引力4t、支間斜距離603m、主索24mm)
伐採面積は10.39ha(広葉樹7.25ha、ヒノキ3.14ha)
そのうち、標準地プロット(20m×20m)を7箇所設置し、単位面積当たりの蓄積量を算出(推定)。
伐木作業は2人(チェーンソー2台)。
集造材作業は集材機運転手1名、荷掛手1〜2名、荷外手1名。(集材機運転手と荷外手がグラップルとチェーンソーで造材。)
伐採作業の分析は、プロット内の作業を、集造材作業の分析は、プロット内とその付近の作業を対象に実施。
調査対象は、伐区4(0.66ha)、伐区6(0.54ha)、伐区8の一部(0.52ha)。
搬出された材は、長さ2mの丸太及び枝葉とし、11tトラックで運搬。
【結果】
出荷量は、丸太が402.1t(37車分)、枝葉が22.2t(4車分)、混焼向け枝葉が148.0(26車分)t。
合計572.2t
丸太の買取価格は、工場着時の含水率(湿量基準含水率5%wb刻み)による変動制。
価格は5,800円/t(46.1%wb)〜7,400円/t(39.2%wb)の間。
平均価格にすると6,963円/t。
枝葉の買取価格は、3,800円/tの定額。
混焼向け枝葉の買取価格は、証明書付き一般材で1,000円/t(35.0t)、証明書付き未利用材で1,500円/t(113.0t)。
運搬費は、丸太も枝葉も23,000円/車、混焼向け枝葉は、土場買い取りのため0円/車。
運搬費をt換算すると、丸太は2,117円/t、枝葉は4,153円/t、混焼向け枝葉は0円/t。
運搬費を差し引いた販売収支は、丸太4,846円/t、枝葉−353円/t、混焼向け枝葉1,382円/t。
(この時点で、枝葉は赤字。)
出荷量あたりの事業経費は、伐木集造材作業のみで、9,984円/t
架設を加えると、11,976円/t
さらに作業道を加えると、13,215円/t
全体の収支
利益率の高い丸太のみで、4,846円/t、平均で3,749円/t。
架設と作業道作設を含めた経費で差し引きすると、3,749円/t-13,215円/t=9,466円/tの赤字。
利益率が高い丸太4,846円/tと伐木集造材のみの事業費9,984円/tでも、5,138円/tの赤字。
次に生産性(詳細は省略)。
今回は、伐木集造材作業のみで2.55t/人日。
これに、架設作業を加えると、2.08t/人日。
平均買取価格の3,749円/tの場合、架設作業を含む生産性を6.65t/人日(3.2倍)にしないと採算が合わない。
利益率が高い丸太買取価格の4,846円/tで、作業経費を伐木集造材のみとした場合、生産性を5.26t/人日(2.06倍)にしないと採算が合わない。
これに対し、改善策も書かれていましたが・・・・
・径の小さいものを現地に残し、径の大きいもののみ集材する、1度の集材量を増やす、架線作業の習熟度がまだ高くないので、技術向上が必要、路網と簡易架線・車両系の活用の検討など。
今回の事例地は、地形条件により架線集材となったが、材価が低い広葉樹の皆伐作業では、可能ならば路網を整備して、簡易架線や車両系による集材方法を行えるようにすることが望ましい。
失礼ながら、生産性を2~3倍にしないといけないなら、非常に苦しい改善策案だな~と思いました。
でも、この試験・調査自体は非常に良いものだな~と感じました。
あくまで一事例でしかありませんし、違う現場なら結果は違ったかもしれません。
が、販売収支と生産性を数値化することで、木質バイオマス発電事業がいかにハードルの高いモノなのか、改めて痛感することができました。
「天然更新できる広葉樹でバイオマス利用!」と安易に考えず、こういうデータも見ながら、慎重に進めないといけない・・・と思った次第です。
この結果は、それを示す1つの指標になりそうだな~と思いました。
専門的かつ堅苦しい内容の上、長文にも関わらず、最後までお付き合いいただき、ありがとうございます。