2016年11月発行の林業経済学会誌「林業経済研究」で発表された論文の紹介です。
もっと前にご紹介するはずが、冊子が行方不明になり、最近、見つかったので、ご紹介が遅くなりました。
専門的かつ経済学分野の複雑な内容で、久しぶりに読み返しましたが、やはり頭はパンク状態。
特にわかりやすい部分を抜粋して、簡単にご紹介したいと思います。
以下、論文から一部を抜粋しながら・・・かなり雑な紹介となりますが、ご容赦下さい。
「2008~2013年における農林家の再生産過程の変化-2013年「林業経営統計調査報告」分析-(根津基和 東京農業大学地域環境科学部森林総合科学科)」
目的
2013年「林業経営統計調査報告」を分析し、農家林家論の視点から考察を加えること。
分析方法はマルクス経済学の労働価値説に基づき、上記報告書を中心に不変資本、可変資本、計算上の余剰価値に分割し、経時的・共時的に行った。
「階層別経営収支」について
林業所得は所有山林20~50ha層で黒字。
50~100ha層、100~500ha層、500ha以上層は赤字。
特に500ha以上層は4,761千円の赤字。
赤字の要因は請負代金、雇用労賃、機械修繕費。
2013年の特徴は、大規模な森林所有者ほど赤字になりやすく、小規模な森林所有者の方が黒字になりやすい傾向に。
「保有山林規模別林業再生産過程の比較(2008年と2013年)」
2013年の500ha以上層は雇用依存率89.9%、請け負わせ割合52.9%。
素材生産割合は91.5%で他に収入源が見受けられない。
2008年と比較すると大きく赤字に傾いている。
2013年時点の大規模層は、中小規模層に対する優越の兆しがなく、薄利多売が招いた結果。
20~50ha層は、家族労働賃金評価額と流動資本は高まっているが、林業利潤は圧迫していない。
素材生産割合は61.6%と2008年より高まっている。
一方、キノコ生産割合は4.5%と2008年の32.8%から後退し、素材生産に単純化している。
家族労働賃金評価額が高いからこそ経営状況は良好であるとも考えられる。
2013年の500ha以上層は経営状況が最悪。
林業労働雇用賃金や請負代に頼り切った結果が招いた事実。
中小規模林家層には、展望が残されているものと考えられる。
これが自伐型林業論との接続になり得ないか。
以上。
2013年当時の状況を思い出しながら読むと、「当然やろ!」って思いますが、データを分析して論文にされると一般論に加えて、学問的な視点でも同様だと言えるので、信憑性が高まります。
現場では当たり前のことでも、論文でも同じことが指摘されているか否かの差はとても大きいと思っています。
良い報告でしたので、本当は、全文を載せてご紹介できればいいのですが・・・。
実際の論文は、当然ですが、この2点以外の点についても報告されています。
今回は、簡単に上2点のみをご紹介しました。(筆者には大変申し訳ございませんが。)
というのは、個人的な考えですが、「生産性の向上」、「コスト縮減」、「木材需要拡大」など林業の課題はたくさんありますが、特に重大な課題は「林業経営の改善」だということです。
生産性の向上やコスト縮減という課題に対して、路網整備や高性能林業機械の普及、木材需要という課題に対して、集成材やCLTにバイオマスなどなど様々な対策を講じています。
さらに、今、「スマート林業」ということでICTを活用した取り組みも注目されています
とはいえ、外材の流通、木材価格の低迷、需要の低下など社会情勢や時代の流れから「変えられないもの」や「変えがたいもの」もあり、それらに対して、新たな技術・これまでの技術を駆使して、現状に対応出来る体制を整える必要があると思います。
路網整備や高性能林業機械の普及で、事業コストは縮減できたかもしれませんが、林業経営は改善されたのでしょうか。
ドローンで苗木を運搬すれば、造林コストは縮減できるかもしれませんが、林業経営上、改善する否かの検討はしているのでしょうか。
森林GISなどシステムを登用したことで、森林管理に要するコストが縮減でき、導入コストに対して、林業経営上、改善した(向かっている)のでしょうか。
少し批判的な意見になりますが、国有林など公共事業では「事業コストが縮減できた」と評価されても、それは請負費用であって、実際に要したコストとは異なります。
また、導入コストや維持・管理費、減価償却費なども含まれていないことが通常です。
こうした公共事業ベースで縮減できた実績を基に民間に当てはめ、仮に事業費が縮減できても、経営上の良し悪しとは別問題です。
事業体・所有者(法人・個人)・森林組合などそれぞれ組織の体制は異なりますが、効率が上がる・コストが縮減されるなどではなく「林業経営としてはどうなのか」という視点は、とても重要であると思います。
日本は人口減少に向かっているので、木材需要は下がります。
そして、林業に限らず、あらゆる産業で国内市場の縮小という問題に当たります。
当然、海外への輸出という答えに行きつき、生産拠点を海外に移す企業も出てきたら、国内での雇用の場も減少します。
社会情勢や時代の流れから「変えられないもの」がありますが、その中で、「前向きに取り組む」ことはできます。
何を取り組んだらいいのか、どうすればいいのか、マニュアルも教科書もないので、個々で見つけていくしかありません。
だからこそ、「林業経営の改善」に向けて進むことが、一番重要な課題ではないかと考えています。
例えば、
自伐型林業を目指している方と大規模所有者を繋げる。
その方に50haほど山林の管理を任せる。
いわゆる「山番」とか「山守」を自伐型林業をしたい方に任せる。というもの
大規模所有者が求める山づくりもあるので、一定の縛りを受けるかもしれませんが。
こういう方が10人いれば、500haの管理をお願いできる。
これまでの山番と異なり、金銭ではなく資源を提供する形で、任された山から採取したもので得た収益は、所有者ではなく、管理しているものへ。
所有者は必要最低限の経費で山林を管理できる。(0円ということもあり得る)。
自伐型林業が注目され、その実践者が増えている状況は、林業経営の改善につながる可能性があり、それを検討する価値は十分に高いと考えています。
付き合いで続けてきた赤字の事業を止める、特殊伐採など新しい事業を始めるなども経営を改善するための1つですし、実際に、それを実現している方々もいらっしゃいます。
今回ご紹介した論文を読んで、かなり自分勝手な解釈ですが、やはり「林業経営の改善」が重要であると再認識した次第です・・・が、少々、持論を押し付けるような論文紹介になってしまいました。
申し訳ございません。ご容赦下さい。m(_ _)m